いささか旧聞に属するが、年明けにいくつかメジャーな賞の発表があった。まず、Costa Book Awards の部門賞http://www.costabookawards.com/awards/category_winners.aspx で Novel Award に輝いたのは A.L. Kennedy の "Day" だが、ぼくは未読。驚いたのは、処女長編賞に選ばれたのが Catherine O'Flynn の "What Was Lost" だったことで、これは昨年のブッカー賞のロングリストにも入っている作品だが、ぼくは去る9月5日の日記で「何が言いたいのかよく分からな」い「選考委員の眼識を疑ってしまう」「駄作」と酷評している。今でもその評価に変わりはないが、前にも書いたとおりイギリスでは好評のようだ。今月22日に最優秀作品賞が発表されるので、もし同書が受賞していたら選定理由をよく読もうと思っている。
ちなみに、去年の最優秀作品賞を取った Stef Penney の "The Tenderness of Wolves" は、問題点もあるが面白い作品だった。
- 作者: Stef Penney
- 出版社/メーカー: Quercus Publishing
- 発売日: 2007/02/01
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…例によって昔のレビュー。何だかベタぼめしているようだが、ぼくはアマゾンではホメホメおじさんに徹している。投稿基準に抵触する内容かどうかを考えるのが面倒くさいからだ。「心の底まで揺り動かされるような感動を覚えなかった」理由をここで書くと、要はこれが一種の「文芸エンタテインメント」に過ぎないということである。波瀾万丈の物語として面白いことは面白いのだが、ただそれだけ。人生の重大な問題を追求しているわけでも、人間に関する真実を何かしら提示しているわけでもない。こういう作品は、あまり理屈をこねずに一気に読んでしまうに限る。そうすれば、内容的には浅くてもそれなりに楽しめるものだ。
事実、知り合いに読書好きのカナダ人がいるので本を貸したところ、やはり「面白かった!」という感想だった。著者が現地を取材せず、資料だけで本書を執筆したという話を紹介したらびっくりしていた。それだけ描写は精密ということだろう。
最近の賞レースの行方で僕が注目しているのは、全米書評家協会賞(全米批評家協会賞)だ。http://bookcriticscircle.blogspot.com/2008/01/2007-national-book-critics-circle-award.html 未読の候補作がほとんどだが、当たるも八卦、当たらぬも八卦、Marianne Wiggins の "The Shadow Catcher" に期待したい。理由はシノプシスの斜め読みに加え、旧作をもっている作家であることと、表紙が印象的という文学ミーハー派ならではのものだが、過去にブッカー賞でこういう山勘が当たったことがあるので、恥をしのんで本命に挙げておこう。
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In the Country of Men (Penguin Essentials)
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…一年半も前に読んだ本なので詳細はほとんど忘れてしまったが、上のレビューから判断するかぎり、これは政治小説ではない。子供の世界や家庭生活の思い出に絞れば、情感豊かな印象深い作品だったはずだ。が、子供たちの友情に全体主義体制が影を落としているのに、なぜその点を徹底的に描かないのだろうと疑問に思った憶えがある。本書がもし栄冠に輝くとしたら、それは「哀切きわまりない」心情表現を高く評価した結果だろう。
ほかにも、アレックス賞の受賞作が発表されているが、昨年のブッカー賞で僕が本命に推した Lloyd Jones の "Mister Pip" 以外は未読。後日、残りの九作からどれか選んで感想を書くことにしよう。http://www.ala.org/ala/yalsa/booklistsawards/alexawards/alex08.cfm