今日からしばらく出張することになったので、場つなぎに昔のレビューを載せておこう。
- 作者: Tim Winton
- 出版社/メーカー: Scribner
- 発売日: 2003/05/01
- メディア: ペーパーバック
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[☆☆☆☆] 2002年度ブッカー賞候補作。受賞した『パイの物語』と較べても何ら遜色ない出来ばえで、個人的な好みを言えば、本書のほうがむしろ面白いほどだ。不倫話で始まるも室内劇にとどまらず、やがてロード・ノヴェル、最後は冒険小説になるという起伏に富んだ展開で、ロバート・レッドフォードでも映画化してくれないものか。舞台はオーストラリア南部の漁村。裕福な漁師の後妻が家庭生活に悩んでいた矢先、強烈な孤独の匂いを発する男を見つけて関係する。が、すぐに夫に悟られ、男は村を飛び出すのだが、ここからが本書の読みどころ。二人の過去の思い出や、男の場合は旅先で出会った人々とのふれあい、女の場合は家族や村人たちとの交流を通じて、刹那的と思えた男と女の関係が実はそうではなく、二人とも純粋な心をもちながら社会的には異端の存在であり、それゆえ真に共感しあえる間柄だったことが次第に明らかになる。そういう物語の構成が実に巧妙だ。と同時に、主役はもちろん、脇役もすべて、それぞれの人生を感じさせる陰影に富んだ人物で、無駄な動きや会話がひとつもないのもみごと。後半、男が文明生活を逃れ、熱帯のジャングルで生活する様子はロビンソン・クルーソーの冒険そのもので、結末も映画的だ。英語は難易度の高い口語表現が頻出するので、大型の英和辞書が必要。
…昨日読みおわった Mischa Berlinski の "Fieldwork" と較べると、こちらのほうが数段面白い。基本的には "Fieldwork" と同じく「痴情のもつれ」が描かれているのだが、この言葉から連想されるような三文小説ではない。これほど緻密に心理を書きこみ、かつ起伏のある展開を見せてくれると、ブッカー賞を取れなかった敗因と思われる主題の陳腐さを指摘するのが野暮に思えてくる。出来すぎの結末はご愛敬といったところだろう。
今回ネットで検索して分かったのだが、本書は、『パトリオット・ゲーム』や『ボーン・コレクター』などで有名なフィリップ・ノイス監督のもとで映画化される予定だという。日本でも公開されれば翻訳が出るかもしれない。
そういえば、映画化されたトム・ペロッタの『リトル・チルドレン』はもう邦訳が出たのだろうか。"Dirt Music" と較べると、同じ不倫話ながら、いかにもアメリカ的な明朗快活さに満ちている。ぼくの言う「文芸エンタテインメント」の典型のような作品で、底は浅いが気になるほどではない。以下は、昨年のアカデミー賞発表前に書いたレビュー。
- 作者: Tom Perrotta
- 出版社/メーカー: St Martins Mass Market Paper
- 発売日: 2006/10/03
- メディア: マスマーケット
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