アメリカで話題のベストセラー、Lisa See の "Peony in Love" をやっと読みおえた。
- 作者: Lisa See
- 出版社/メーカー: Random House Trade Paperbacks
- 発売日: 2008/02/19
- メディア: ペーパーバック
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…上の「恋愛歌劇」とは、一度死んだ女が生き返り、男と結ばれるというゴースト・ストーリー風恋愛劇で、著者の「あとがき」をもとに検索すると、湯顯祖 (Tang Xianzu) 作の『牡丹亭』(Peony Pavilion) という実際に存在する作品だった。さらに、本書のヒロイン、Chen Tong と、男の二人の妻、Tan Ze, Qian Yi も実在の人物で、三人が『牡丹亭』に注釈を加えた "Three Wives' Commentary of the Peony Pavilion" という本も現存するらしい。この本にまつわる話は本書にも出てくる。
ぼくはふだん、著者の「あとがき」などめったに読まないが、珍しく背景知識を仕入れる気になったのは、本書はもちろんフィクションに違いないけれど、これだけ中国の昔の風習が出てくるからには当然、元になる話がいくつかあるはずだと思ったからだ。中国の幽霊、妖怪といえば、小学生のころに読んだ『西遊記』と、吉川英治の『水滸伝』くらいしか「知識」がないので何とも言えないが、中国通の読者なら、本書のエピソードから民間伝承その他、元ネタを推測する楽しみも加わり、さぞ興味は尽きないことだろう。
けれども、予備知識など皆無に等しいぼくの感想は上のレビューに尽きている。幽霊が生者に働きかけ、幽霊同士が語り合い、争い、生者が死者と結婚し、その霊を弔う。そういうゴースト・ストーリーゆえに、陳腐なメロドラマが「生き返っている」。たぶん、その点がアメリカ人には斬新に思えるからこそ、本書はこのところずっと、ニューヨーク・タイムズでベストセラーになっているのだろう。
ぼくも「これだけ工夫がほどこされていれば文句はない」のだが、それでも「そこそこ楽しめる」程度の印象しか残らなかったのは、なにしろテーマがテーマだけに食傷気味だから。著者は「あとがき」で『若きウェルテルの悩み』を引き合いに出しているが、ゲーテの名作に衝撃を受けた若かりしころと同じ感受性があれば、本書も夢中で読んでいたかもしれない。まったく、年は取りたくないものだ。