ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Gabriel Garcia Marquez の "Love in the Time of Cholera"

 前回、Lisa See の "Peony in Love" の感想を書いているうちに思い出したのが、ガルシア・マルケスの『コレラの時代の愛』である。

Love in the Time of Cholera

Love in the Time of Cholera

[☆☆☆★★] マルケスといえば、時空を超越した奇想天外なマジックリアリズムの代表的作家のはずだが、本書は魔術的現実とはほとんど関係のない普通の恋愛小説である。むろん、一人の女性を半世紀以上にもわたって愛し続けること自体、一つの超現実なのだという見方は成り立つだろうし、永遠の愛の世界に生きることを誓う主人公の決断も現実離れしたものだとは思う。しかし、マルケスならではの、あの物狂おしいような異次元の物語を期待して読みはじめると、肩すかしを食うのも事実。とはいえ、男が純愛を貫く一方、ドン・ファン的行動にも走るという筋立てはなかなか面白く、あるいはその恋愛遍歴が一番の読みどころかもしれない。マルケス独特の濃密な文体とは言い難いのが残念だが、英語は読みやすい。

 …3年前に書いたレビュー。その後出た邦訳の売れ行きは知らないが、米アマゾンではずっとベストセラーのようだ。ぼくは同じく英訳で読んだ『百年の孤独』や『族長の秋』にノックアウトされた口なので、相当に期待して読みはじめたのだが、途中からもう、なんだコレラ…とがっかりしたのを今でも憶えている。マルケスはこの作品を書いたとき、既に大作家としての名声を確立していたのに、発表後、20年以上もたってから邦訳が出たのは、それだけ評価が低かった証拠では、という気もする。
 その『コレラ…』を思い出したのは、"Peony in Love" (訳せば『恋する牡丹』) と同じく永遠の愛がテーマだからだが、このテーマの極めつけは『嵐が丘』かもしれない。けれども、あの名作を英語で再読して論評する時間はない、ということでお茶を濁してしまった。
 『恋する牡丹』と『コレラ…』は同じくらいの出来だと思う。まずまず面白いが、胸をえぐられるほどではない。その点、『嵐が丘』は頭一つどころかいくつも抜けていて、大昔、邦訳で3回ほど読んだだけなのに強烈な印象が残っている。あの鬼気迫る永遠の愛の正体については、いつか死ぬまでに原書を読んでぼくなりに結論を出しておきたい。

Wuthering Heights (Penguin Classics)

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