連休とは名ばかりの「自宅残業」の毎日で、気分的には絶不調。ぼちぼち読んでいる本はあるのだが、思うように進まないので前回の続きを書くことにした。
- 作者: Sally Beauman
- 出版社/メーカー: Grand Central Publishing
- 発売日: 2007/02/14
- メディア: ペーパーバック
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- 作者: Sally Beauman
- 出版社/メーカー: Sphere
- 発売日: 2006/02/27
- メディア: ペーパーバック
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…これも昔のレビュー。前回は、Diane Setterfied の "The Thirteenth Tale" が「怪奇な事件にあれこれ説明をつけることで、理に落ちている」ため面白くないという話をしたが、この "The Sisters Mortland" のほうは、「前半の謎の提示が弱い」うえに、その解決も中途半端。要は、え、ホンマかいな、という奇想天外な水準にまで達していない。これまた、「作者が自分の書くことを『なかば本気で信じていない』証拠であ」り、作者自身の理性というか合理精神が災いして、蠱惑的な謎を示すことに腰が引けてしまっている。
むろん、本書は本質的にはメロドラマなので、前半の不思議な事件のほうはイントロに過ぎないが、だからと言って中途半端な解決はよくないし、昨年12月17日の日記にも書いたとおり、「メロドラマでも、人間の情念の本質に迫った『嵐が丘』のような例」もある。その『嵐が丘』が狂気に近い永遠の愛を描いたゴシック・ロマンの傑作であるのに対し、ここで展開されるメロドラマはたしかに話としては面白いけれど、しょせん痴情のもつれに終わっている。つまり、どの点をとっても本書はすっきりせず、感動やカタルシスを得ることができない。
ともあれ、この "The Sisters Mortland" も "The Thirteenth Tale" と同様、ゴシック・ロマンが合理主義と矛盾するがゆえに、少なくとも現代を舞台にしたものは書きにくいという一例だろう。この「ゴシック・ロマン受難の時代」にあって秀作が生まれるためには、かなり図式的だが、(1) 時代小説、(2) 古い館と美女の危機を描いた通俗小説、(3) ファンタジー、(4) マジック・リアリズム、といった路線が考えられる。そのいずれにも属さず、合理主義の桎梏を逃れて現代に異形の世界を築きあげることは至難の業かもしれない。
しかしながら、ゴシック・ロマンもロマンスの一種である以上、そこには必ず恋愛がからむはずだ。それなら、エミリ・ブロンテのように恋愛の本質をとことん掘り下げれば、斬新なゴシック・ロマンが誕生する可能性もあるのではないか。もう既にそんな作家がいるのかもしれないが、ぼくの乏しい読書体験ではまだ発見できていない。老後が楽しみだ。