世間は連休モードだが、ぼくは何かと忙しく、ぼちぼち本を読んでいる程度。前回、『嵐が丘』に軽くふれたので、今日はゴシック・ロマンについて。
- 作者: Diane Setterfield
- 出版社/メーカー: Washington Square Press
- 発売日: 2007/10/09
- メディア: ペーパーバック
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…これも昔のレビュー。07年度のアレックス賞受賞作の一つで、映画化の企画もあるらしいが、正直言って「題名負け」した作品だ。『13番目の物語』とは何と魅力的なタイトルだろうと思ったら、子供だましみたいな話でがっかりした。上のレビューにも書いたように、いろいろ不思議な事件が起きるまではいいのだが、その種明かしが多すぎて興ざめする。こういうゴースト・ストーリーは、作者自身がなかば本気で信じていないと、少なくとも、読者にそう思わせるほどでないと説得力がない。
その点、先週読んだ Lisa See の "Peony in Love" は、時代背景が明の末期から清の初期ということで、大いに得をしている。登場人物はみんな幽霊の存在を信じているし、読者もそういう前提を別に疑いもしないからだ。ところが、現代を舞台にしたゴースト・ストーリーは、怪奇現象を当然視する前提がないだけにかなり難しい。ファンタジーなら独特の世界を築くことが許されるし、「古い館と美女の危機という通俗的なパターン」を踏襲すれば、これまた「そんなものだ」ということで一定の読者が期待できる。そういう安全策をいっさい採らず、時代小説にも逃げず、あえて現代の日常生活を中心にゴースト・ストーリーを書いた Diane Setterfield の試みは大いに評価できるのだが、眼高手低、できあがった作品は新境地を開拓したとまでは言えない。怪奇な事件にあれこれ説明をつけることで、理に落ちているからだ。それはつまり、作者が自分の書くことを「なかば本気で信じていない」証拠でもある。
要するに、合理主義の時代にあってはゴシック・ロマンや幽霊話は成立しにくいわけだが、たとえば昨年のブッカー賞候補作、Nicola Barker の "Darkmans" に見られる、「現実の事件を夢とも幻想とも形容できるような筆致で描」く手法、マジック・リアリズムの方法なら効果的かもしれない。不思議な出来事をいちいち、あとで解説しなくてもいいからだ。今にして思えば、"Darkmans" こそ、「シュールな幻想小説というかオカルトというか、夢の中のような不条理な事件」を扱っている点では、現代版ゴシック・ロマンの秀作だったような気がする。("Darkmans" のレビューは昨年9月24日の日記 http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20070924/p1)
- 作者: Nicola Barker
- 出版社/メーカー: Ecco
- 発売日: 2007/12/01
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