ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Margaret Drabble の "A Summer Bird-Cage"

 Margaret Drabble の "A Summer Bird-Cage" を読了。題名に summer のついた未読の本はまだ何冊か手元にあるが、本書でとりあえず今年の「夏シリーズ」はおしまい。

A Summer Bird-cage

A Summer Bird-cage

[☆☆☆★★] たわいもない小説だ。しかし面白い。才気煥発だが器量は十人並みの妹が主人公。この妹には目も覚めるような美人の姉がいる。幼いころから姉は妹に対して何かと傲岸不遜にふるまい、妹はまったく頭が上がらない。ところが、姉も人の子、じつはほほえましい欠点の持ち主だった。当初はそれだけの話だが、ドラブルの小説技法は巧妙を極めている。姉の結婚式前後のエピソードがいい例だ。いとこや介添え役の男、宴の席で再会した旧友など、脇役たちの性格や関係からじっくり固めていく。妹の目から見た人間観察と彼女のおしゃべりが中心で、劇的な意味での展開はほとんどない。そのあいまに姉の結婚の実態がかいま見えるという凝った仕掛けである。妹がロンドンで暮らしはじめた中盤もしかり。パーティーで知り合った男との会話やその性格描写などが続き、とくに事件らしい事件もないのに小説として成り立っている。これはやはり英文学の伝統の味と言うしかあるまい。やがて上述の介添え役がジョーカー的な存在であることが判明、結婚と恋愛のはざまで揺れ動く女性の生き方が示される。深みのある話ではないが、脇役を固めるうちに主役の人物像が浮かびあがり、最後は主役の独壇場。話術と構成の妙が光る佳篇である。

 …恥ずかしながら、マーガレット・ドラブルの小説を読むのはこれが初めて。煎じつめれば「女の長いおしゃべり」につきあったような感じで、作中人物の生き方に大きな感動を覚えたり、何か人生の真実について深く考えさせられたりするような作品ではない。
 が、なにしろキャラクターの造型が巧妙で、波瀾万丈の展開が売り物の現代小説と較べると、ほとんど性格と人物関係の描写だけで読ませる本書は、英国小説の伝統を踏まえた1963年の旧作なのにかえって新鮮に感じられるほどだ。
 本書における性格描写には情景描写も含まれる。典型的な例を一つあげれば、妹が姉のベッドルームに入り、そこで目にした衣類や家具などを細かく観察するうちに姉の心理変化が示される場面。こういう細部を丹念に仕上げているからこそ、全体としても「女の長いおしゃべり」が単なる無駄口に終わっていないのである。
 テーマとしては、結婚と女の社会的自立という項目を立てることができるかもしれない。が、「結婚と恋愛のはざまで揺れ動く女性の生き方が示され」ていると言っても、だから何なんだとも思う。つまり本書は「たわいもない小説だ」。「しかし面白い」。その面白さを生みだす話芸としてのおしゃべりを楽しむ。そういう小説の楽しみ方があってもいいのではないだろうか。