ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

William Faulkner の “Intruder in the Dust”(2)

 今日から D. H. Lawrence の "Aaron's Rod" を読みだしたらすっかりハマってしまい、もはや頭はロレンス・モード。しかし忘れないうちに、フォークナーの感想の続きを書いておこう。
 テーマに関しては昨日書いたとおりだが、"Intruder in the Dust" の面白さは、冒険小説やミステリ、西部劇のそれになぞらえることもできる。
 まず白人の少年が深夜、題名どおり墓地へ侵入する場面は手に汗握り、これは間違いなく冒険小説のノリ。夜の墓場が舞台だし、見つかれば即リンチということで俄然、サスペンスが高まる。
 それが死体を掘り返してみれば、なんと別人の死体にすり替わっていたというあたりからミステリ調になるが、その前に、死体すり替えの事実を町の有力者につきつける「対決シーン」は、有力者の一家が馬に乗って現われることもあって西部劇そのもの。一家の主は、これが映画ならウォルター・ブレナンで決まり!
 殺された息子の墓を再度、掘り返したら今度はなんと死体がない!さてどこへ消えたのか、というくだりになると、ミステリ・ファンならニヤっとしそうな謎解きがあって面白い。黒人を犯人に仕立てあげる手口など、「冤罪トリック」という項目を江戸川乱歩の類別トリック集成に付け加えたいほどだ。
 少年以外の登場人物としては、何と言っても、墓堀りを手伝う70歳の老婦人(!)の存在が大きい。このお婆さん、黒人にリンチが加えられないように留置所を守る大役も見事に果たすし、男どもにてきぱきと指示を出す姿は痛快そのもの。演じるのはアン・バンクロフトあたりかな。(その後、1949年に Clarence Brown 監督作品として映画化されていることを発見。老婦人を演じたのは Elizabeth Patterson とのことだが、町の有力者役は不明)。
 …こう書くと、この "Intruder in the Dust" は何やらアクション小説のようだが、一連のアクションの合間に、ヨクナパトーファ郡の歴史や地理に関する記述が混じり、三人称だが少年の内的独白も延々と続く。こうした「静と動のコントラスト」は、本書の大きな特色の一つと言っていいだろう。
 また、その静の部分には、「自由に耐えられる人間は誰もいない」「人は最初に見かけた扇動者に自由を引き渡す」といった、ドストエフスキーの作中人物を思い出させるような発言も飛び出し、ドキっとする。
 というわけで、改めてフォークナーの偉大さを確認した次第だが、何しろ英語が難しい。次に接するのはやはり来年の夏になりそうだ。