ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Elizabeth Berg の "We Are All Welcome Here"(1)

 Elizabeth Berg の "We Are All Welcome Here" を読了。「文学の夏」シリーズ以来、大作ばかり読んでいたので、今度は肩の凝らないものを、と思って取りかかったのだが、いささか期待はずれだった。

We Are All Welcome Here: A Novel

We Are All Welcome Here: A Novel

[☆☆☆★] エリザベス・バーグといえば、家族愛をテーマに物語性豊かな小説を書く作家というイメージが強いが、今回はさほど変化に富んだ筋立てとは言えず、そのぶん減点せざるを得ない。むろん、慈愛に満ちたハートウォーミングな筆致は健在で、しんみり、あるいはホロっとさせられる場面もいくつかあるのだが、主人公の娘の母親が重度の身障者ということで、いきおい室内劇が中心。黒人のヘルパーを除けば、登場人物もほとんど来訪者に限られ、事件も人物関係もあまり発展しようがない。一方、それぞれの人物像もステロタイプに近い。自立心が芽ばえたものの、まだ分別をわきまえない娘、逆境にめげず気丈にふるまう美しい母親、口うるさいが内心は愛情豊かなヘルパー。しかしながら、三人の「対立」は適度の緊張をはらんで面白く、心のふれあいはなかなか感動的。娘とその友だちの交流も、青春小説らしくて好感が持てる。英語は平明で読みやすい。

 …ううむ、もっと泣かせてほしかった。前作 "The Year of Pleasures" http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20080328 より明らかに落ちる。前にも書いたように、エリザベス・バーグは「人生の重大な問題を深く掘り下げるタイプの作家ではない」。制約の多い単純な設定だけに、今回はその欠点が目立ってしまった。
 舞台は60年代、まだ黒人差別が根強く残っているミシシッピ州の田舎町ということで、バーグにしては珍しく社会問題も描かれる。が、それはあくまで背景にとどまり、本質的には家庭小説の域を出ていない。それはそれで結構なのだが、上に述べたバーグの欠点を露呈する結果になっているのが残念。
 とまあ、ずいぶんケチをつけてしまったが、プレスリーが登場する最後のエピソードがユニークで、読後感はさわやか。熱心なバーグ・ファンならそれなりに楽しめるだろう。