ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Marisa de los Santos の "Love Walked In"

 Marisa de los Santos の "Love Walked In" を読了。前回ふれたとおり、4、5月ごろだったか、ニューヨーク・タイムズのベストセラー・リストに入っていた本。お買い得だと思う。

Love Walked In

Love Walked In

[☆☆☆★★] 愛の賛歌をテーマにした、なかなかゴキゲンな小説。人物の彫りが浅い、本質的な緊張関係がない、都合のいい展開が目につく、などなど、いろんなケチはつけられる。が、そんな理屈をこねるのが野暮に思えるほど楽しい工夫がほどこされているので、素直に話の流れに身を任せたほうがいい。舞台はフィラデルフィア。ある日突然、女の経営するカフェにケーリー・グラント似のハンサムな男がやってくる。そこで女は舞いあがり…という恋愛小説の流れが一つ。一方、母親が急に異常な行動を取りはじめて思い悩む少女の物語が並行して語られる。どちらにしても、場面に応じて『フィラデルフィア物語』をはじめ、往年の名画がしばしば引き合いに出され、ジェームズ・スチュアートキャサリン・ヘップバーンなど名優たちの話も出てくるので、映画ファンなら頬がゆるみっぱなしのはず。二つの物語が一つにまじわる展開は定石だが巧妙だし、結末はほぼ予想がつくものの、あるエピソードを周辺の人物の描写から始めたり、戯曲風の会話をはさんだりするなど、表現形式に変化があって退屈しない。書きようによっては底の浅さが気にならず、むしろ読んで得した気分になれるという小説の好見本。英語は標準的で読みやすい。

 …Marisa de los Santos のデビュー作。彼女は人生の重大な問題を深く追求するタイプの作家ではないが、新人離れした技巧が光り、話としては単純なのに読ませる。ネタをばらさない程度に書くと、親子でも夫婦でもない三人の愛情物語が感動的でハートウォーミング。新作の "Belong to Me" もなかなか好評のようだ。来年3月に出る予定のペイパーバック版を楽しみに待っていよう。

Belong to Me: A Novel

Belong to Me: A Novel