ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Kent Haruf の "Eventide"(1)

 Kent Haruf の "Eventide" を読了。やはり "Plainsong" ほどの出来ばえではなかったが、それでも読後、しばし静かな感動の余韻にひたった。

Eventide (Vintage Contemporaries)

Eventide (Vintage Contemporaries)

[☆☆☆★★] 行間に哀しみが圧縮された小説だ。その哀しみは、決して波瀾万丈の劇的展開から生みだされたものではない。親身になって世話をした若い娘とその子供が家を出て行く。長年一緒に牧場を経営してきた兄が死ぬ。どれをとっても日常、人がいつかは経験する別れだ。しかし、そこには間違いなく、本物の悲哀がこもっている。幸福な人間はほとんど一人も登場しない。不幸な男女、不幸な夫婦、不幸な親子、不幸な兄弟姉妹、不幸な子供たち…。誰もが心に傷を持っており、どの場面からも嘆きの声が聞こえてくる。ときどき胸を躍らせるような瞬間が訪れる。希望も少し語られる。だが基調はやはり、哀しみだ。それも静かな哀しみ。大声で泣き叫ぶシーンもいくつかあるが、胸を打つのは感情の吐露ではなく、「間接話法」とでも言おうか、その感情がちょっとした行動のはしばしに読みとれる一瞬だ。その一瞬がたまらなく切ない。そして小さな町に訪れる夕暮れ。大草原を吹きぬける風。それは、「小さな説」としての小説を静かに楽しむひとときでもある。英語は平明で読みやすい。

 …"Eventide"『夕暮れ』というタイトルと、表紙の写真から受けるイメージどおりの作品だ。欠点もいくつか目についたが、今日はケチをつけたくない。もう夜も更けた。余韻にひたりながら床につくとしよう。