ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Siri Hustvedt の "What I Loved"

 年末が近づいてきた。ぼくは何しろ宮仕えの身なので大忙し。連休中も「自宅残業」の毎日だった。おかげで、せっかく読みだした Patrick Gale の "Notes from an Exhibition" も思うように進まない。
 が、その割に今のところ、かなり気に入っている。故植草甚一なら、「なんだか、とてもしゃれてる本だなあ、と感心してしまった」とでも書きそうだ。画家が主人公なので、今日は画家つながり。その昔、アマゾンに投稿して削除した "What I Loved" のレビューでごまかしておこう。

What I Loved

What I Loved

[☆☆☆☆] ハストヴェットといえば、処女作『目かくし』も非常に面白かったが、何しろ文体も主題もオースターそっくりで、おしどり夫婦というか「夫唱婦随」ではないかと思ったものだ。が、どうやら本書で彼女は自分の顔を見つけたらしい。その特徴はずばり、上質のメロドラマと高度なリアリズムにある。むろん、現実と虚構の混交というオースター風の特色も見られるのだが、それは本書ではむしろ二次的な要素に限られている。主人公は美術史専門の老教授。その友人の画家が、現実と虚構を結びつけた異様な作品を生みだすのだ。教授は、画家とその再婚相手のモデル、画家が前妻との間にもうけた息子との交流を中心に四半世紀を回想する。冒頭からかなりの速度で物語が進行し、その面白さにどんどん引きこまれる。教授自身の妻と息子も含め、誰もがおおむね幸福だった時代。しかしやがて、過去形の文章にときおり混じる現在形が気になりはじめる。ここで描かれている過去と現在の間には、何かとんでもない事件が起こったのではないか?それが具体化される後半は、非常にリアルでメロドラマティックな展開だ。各人が相手に感じている愛情を殺す背信、無関心、別離、そして死。息もつかせぬ事件の連続で、最後まで一気に読んでしまった。英語も準一級程度で、いくつか難しい単語はあるものの、速読の妨げにはならないだろう。