ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

David Benioff の "City of Thieves"(1)

 いやはや、面白かった! 一昨日の雑感ではつい「文芸エンタメ系のノリ」とケチをつけてしまったが、たとえ本質はそうであっても、これだけ面白いと文句を言うほうがおかしい。今年2回目の台詞だが、アレックス賞万歳!

City of Thieves

City of Thieves

City of Thieves: A Novel

City of Thieves: A Novel

[☆☆☆★★★] 第二次大戦中、レニングラード包囲戦のさなか、うぶな少年が否応なく大人へと成長せざるをえなくなった冒険物語。フロリダに移住したロシア人が激動の日々を回想する。厳冬期、空襲を受け、飢餓に苦しむ廃墟の街。夜間外出の禁を犯して逮捕された少年が脱走を疑われた兵士ともども、秘密警察の大佐の命令により、その娘のバースデイ・ケーキに必要な卵を調達しに出かけるという話がまず面白い。人肉売りの男との死闘や、パルチザンとドイツ兵との戦闘など、手に汗握るアクション・シーンが随所にある一方、やっと見つけた鶏が卵を産むのを待っていたら、それがなんと雄鶏だったという爆笑もののエピソードも混じる。脱走兵はハンサムで女たらし、口八丁手八丁。そのユーモアが戦争の厳しい現実とコントラストをなし、本書に小説としてのふくらみを与えている。少年の父親が粛清された有名な詩人で、脱走兵が小説を執筆中という設定もふくらみのひとつ。二人がドイツ軍の包囲網を突破し、近くの町へ卵を探しに出かけてから物語はますます快調になり、狙撃の名手の娘が登場、少年が恋心をいだくことで青春小説のおもむきも加わる。圧巻は、少年とドイツ軍将校との息づまるようなチェスゲームで、そのあとさらに大きな山場が待っている。戦争の根源を深く掘り下げるような問題意識は認められないし、いわば想定内の場面が連続する作品とも言えるが、最後の最後までこれほどサービス満点だと、黙って至福のひとときを楽しむのがいちばんである。英語は平明で読みやすい。