ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Marieke Lucas Rijneveld の “The Discomfort of Evening”(1)

 今年の国際ブッカー賞受賞作、Marieke Lucas Rijneveld の "The Discomfort of Evening"(2018)を読了。Rijneveld はオランダの若手女流作家で、原語はオランダ語。さっそくレビューを書いておこう。 

 [☆☆☆] 自由で平和な時代と国においては、家族の死は最大の悲劇のひとつであり、その超克は個人にとって最大の試練のひとつとなる。いちばん上の兄を突然亡くした十歳の少女ジャスは、両親が悲嘆に暮れるなか、つぎの兄と妹ともども、なにを考え、どう生きていくのか。と、これだけの紹介でおおよそ見当がつく青春小説である。繊細で多感なジャスは兄の死に責任を感じるも、死を完全には理解することができない。重苦しい沈黙が垂れこめる農場生活から逃れようと思いながら、両親が幸せな日常をとりもどすことも願っている。『アンネの日記』を読んだあと、地下室にユダヤ人が潜んでいるのでは、と想像をたくましくする一方、厳格な父や意地わるな次兄、生意気な妹の死を一瞬思い描く子どもらしい残酷さも覗かせる。こうした心のゆらぎが序盤からえんえんとつづき、かなり単調。後半も、性のめばえ、おねしょ、便秘などのエピソードや突発的な事件で変化がつけられるものの、心に善悪両面があることを自覚した、想像力豊かな少女が死をどう受け容れるかという基本テーマは、衝撃の結末もふくめて変わらない。冒頭のシーンと代表的なエピソード、それに結末をひろい読みすればじゅうぶん。そんな構成の短編だったら絶品だったのではあるまいか。