去年のギラー賞(Scotiabank Giller Prize)受賞作、Johanna Skibsrud の "The Sentimentalists" を読みえた。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。
[☆☆☆] 人生の悲哀、感傷、心の傷が霧のなかから浮かびあがり、そしてまた霧のなかへ消えていく。そんな移ろいをじっくり味わうべき作品である。けっして面白い読み物ではない。主な舞台はオンタリオ州の田舎町、ダム湖のほとりにある家。幼いころから毎年の夏、そこで過ごしていた次女が大人になったいま、父の死を見届けようとしている。全篇にわたって彼女の回想がノスタルジックで抒情的な筆致で綴られ、父をはじめ、姉や別居中の母などの過去が少しずつ明らかにさる。やがて父自身の回想も混じり、さいごは物語の核心ともいうべき父のヴェトナム戦争体験談。が、なにが真の核心なのかはいっさい不明。なにもかもオブラートにつつまれ、おぼろな過去の断片と、ふとかいま見える各人の悲哀から万感の思が察せられるだけ。いわば間接描写の美学の粋を凝らした作品だがパンチ不足は否めない。

