ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Johanna Skibsrud の “The Sentimentalists”(1)

 去年のギラー賞(Scotiabank Giller Prize)受賞作、Johanna Skibsrud の "The Sentimentalists" を読みえた。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。

The Sentimentalists

The Sentimentalists

The Sentimentalists

The Sentimentalists

The Sentimentalists

The Sentimentalists

[☆☆☆★★] 人間の悲哀、感傷、心の傷が霧の中から浮かびあがり、そしてまた霧の中へ消えていく。そんな過程をじっくり味わうべき作品である。決して面白い読み物ではない。主な舞台はオンタリオ州の田舎町、ダム湖のほとりにある家。幼いころから毎年の夏、そこで過ごしていた次女が大人になった今、父親の死を見届けようとしている。全編にわたって次女の回想がノスタルジックで抒情的な筆致で綴られ、父親をはじめ、姉や別居中の母親、湖の家の持ち主などの過去が少しずつ紹介される。やがて父親自身の回想も混じり、最後は物語の核心とも言うべき父親の戦争証言。が、すべての真相が明らかにされるわけではない。示された過去の断片、ふとかいま見える各人の悲哀から、その胸の内に秘められた万感の思いを推し量るしかない。いわば間接描写の美学の粋を凝らした作品である。英語は挿入句の多い入り組んだ構文が続き、その意味で難易度はやや高い。