今年のオレンジ賞受賞作、Rose Tremain の "The Road Home" を半分ほど読んだところだが、かなり面白い。が、この拙文を書いているあいだもパソコンの電源が切れるのでは、と思えるほどマシンの調子が悪いので、きょうはとりあえず、同じ英国女流作家 Beryl Bainbridge の旧作、"An Awfully Big Adventure" の昔のレビューでお茶を濁しておこう。
[☆☆☆★★★] 大向こうをうならせる傑作ではないが、ウェルメイドという形容がぴったりの佳品。第二次大戦後まもない
リヴァプールのレパートリー劇場を舞台に、お色気たっぷりの、しかしちょっとオフビートな16歳の娘が、これまた少々ヘンテコな芝居関係者と接するうちに色恋沙汰その他、さまざまな事件に巻きこまれる。登場人物はかなり多いが、ウィットに富んだ会話、ユーモアあふれる描写をベースに、短いカットを小気味よくつなぐことで、それぞれの人物像が鮮やかに浮かびあがり、その面白おかしい人間模様、人生模様が活写される。事件の性質上、総じてブラック気味のコメディーで、落語の名人芸にも通じるその語り口はやはり、英国小説の長い伝統に根ざしたものと言うべきだろう。過去に何度も
ブッカー賞にノミネートされながら、まだ一度も栄冠に輝いたためしのないベインブリッジだが、小説技術という点ではもちろん巨匠の域に達している。それなのに、たとえば本書が90年に受賞を逃したのはなぜなのか。対抗馬の出来は別として、評者なりに推測はつくのだが、あえて論評しない。その理由を考えながら至芸を楽しむのも一興だろう。英語としては、上級のイディオム表現が頻出するものの、決して難解というほどではない。
……電源が切れなかった。ローズ・トリメインもベインブリッジ同様、「その語り口はやはり、英国小説の長い伝統に根ざしたものと言うべき」であるが、"The Road Home" の詳細はまた後日。