アイルランドの新人作家、Kevin Barry の長編デビュー作、“City of Bohane” を読みおえた。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。
追記:その後、本書は2013年の国際IMPACダブリン文学賞を受賞しました。
[☆☆☆★] 2053年、
アイルランド西部の港町ボヘーン。そこでギャング同士の抗争が繰りひろげられる一方、あるボスの妻の元カレで、昔のボスが街に帰ってきた。近未来版西部劇である。街とその周辺を縄張りとするファミリーのなかには、
古代ローマの世界を思わせるような「蛮族」もいて、流血の激突シーンなど、映画『マッドマックス』さながら迫力満点といいたいところだが、さほど強烈ではない。血は流れても予想のつく展開でサスペンス不足。抗争のあとにつづくファミリーの内紛もパッとしない。こうしたSF活劇の一方、ここにはノスタルジックな人情劇としての側面もあり、昔日の栄光を懐かしむ市民たちの感傷と、女心をつかむことのできない男たちの感傷がそれなりに読ませる。が、本書でなにより圧倒的なのは凄まじい言葉の奔流である。
スラングなのか方言なのか、すこぶる生々しい表現で、猥雑にして美しい街の風景が、一種独特の空想世界がしだいに浮かびあがってくる。ただ、抗争劇にしても人情話にしても、舞台をあえて未来に設定する必然性がないのは明白。それを忘れさせるほどの「奔流」でもなかったわけだ。はじめに言葉ありきとはいえ、同時に中身もありき、なのである。