今年のブッカー賞候補作、Carol Birch の "Jamrach's Menagerie" を読みおえた。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★] 少年が冒険を通じて大人になる
通過儀礼を描いた佳作。19世紀なかば、ロンドンの路上で主人公の少年が虎に咬まれ、奇跡的に助かるというショッキングな開幕の事件も、友人ともども
捕鯨船に乗り組み、竜探しに出かける中盤のハイライトも当初は意味不明。初航海での船乗り生活や
捕鯨シーン、そして「竜」の発見と捕獲など、どれもほとんど定番の内容ながら、先行きの読めない面白さがある。やがて船は竜巻に襲われ、少年たちはボートで太平洋を漂流することに…。これも定石どおりと思っていたら、とんでもない展開が待っていた。子供が困難に出会い、厳しい現実を知り、心を痛めながら、その現実に対処するすべを学ぶ。それが大人になることの意味のひとつだが、本書の場合、少年の体験は凄惨きわまりないものだ。それを通じて生と死、愛と友情の意味を実感する。古びたテーマだが、「当初は意味不明」に思えたエピソードをすべて、次第にこの凄絶な
通過儀礼へと収斂させる手腕はみごと。難度の高い語彙も散見されるが、総じて読みやすい英語だ。