今年のブッカー賞最終候補作、Esi Edugyan の "Half Blood Blues" を読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。(追記:本書はその後、今年のギラー賞を受賞しました)
[☆☆☆★★] 青春とは激しい嵐に吹かれ、深く傷つく時代。平凡なテーマだが、本書はその嵐にふさわしい、かつ特異な人物と舞台の設定により水準を超えている。第二次大戦前夜のベルリン、そしてドイツ軍による占領直後のパリ。二流の黒人ジャズバンドのシッドとチップが、若き天才トランペッター、ヒエロニマスとからみあう。友情、嫉妬、欲望、挫折。おなじみのブルースが流れるなか、突然、恐怖の事件がなんどか起こり、サスペンスが一気に高まる。恋愛沙汰もふくめ、定番の読み物の面白さだが、熱気を帯びたミュージック・シーンの描写は秀逸。かのルイ・アームストロングを脇役としてうまく使っているのも得点材料だ。この波乱に満ちた過去篇とくらべ、いまや年老いたシッドがチップと再会する現代篇は、やはり緊張が走る場面もあるものの尻すぼみ。荒削りな物語になってしまったのが残念だ。とはいえ前半の熱気のなごりはあり、総じて青春の嵐と心の傷というブルースがよく伝わってくる佳篇である。