ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Julie Otsuka の “The Buddha in the Attic” (1)

 今年の全米図書賞の最終候補作、Julie Otsuka の "The Buddha in the Attic" を読了。さっそくレビューを書いておこう。
 追記:その後、本書は2011年のロサンゼルス・タイムズ紙文学賞の最終候補作にも選ばれました。

The Buddha in the Attic

The Buddha in the Attic

[☆☆☆★★★] アメリカに移住した日系一世の女性たちの苦難の物語である。希望に胸をふくらませながらの渡航、彼の地で待っていた厳しい現実。夫から性の奴隷のように扱われ、過酷な農作業に従事し、出産や育児の苦労をなめ、やがて太平洋戦争が勃発して強制収容。ざっとそんな内容だが、叙述スタイルに見るべきものがある。どのくだりでも畳みかけるように対句表現が多用され、そのリズムに思わず乗せられる。悲惨な歴史をこれほどテンポよく語りつづける小説も珍しいのではないか。しかも、語り手は「私たち」ということで、個人的な感傷が集団のものとして純化され、いくつもの苦しみが大きな歴史の流れへと収斂していく。その結果、小品ながら大河小説に匹敵する効果を上げているところがすばらしい。事実、悲劇に翻弄されつづけた日系女性たちの運命を思うと、しばし茫然となってしまう。英語はごく標準的でとても読みやすい。