ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Chad Harbach の “The Art of Fielding” (1)

 多忙やら体調不良やらで、すっかりカタツムリ君のペースだったが、Chad Harbach の "The Art of Fielding" をようやく読みおえた。ニューヨーク・タイムズ紙や米アマゾンの年間ベスト作品に選ばれるなど、間違いなく今年の超話題作の一つである。さっそくレビューを書いておこう。

The Art of Fielding: A Novel

The Art of Fielding: A Novel

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[☆☆☆☆] ああ面白かった! 基本は単純明快な青春スポーツ小説なのだが、これに親子の愛情と対立、男女の恋愛、はたまたゲイ関係などが複雑にからみあい、それぞれの要素のさばきかたがタイトルどおり芸術的で、どこを読んでもすぐに引きこまれる。十七歳の青年ヘンリー・スクリムシャンダーは野球の守備の天才ぶりを認められ、ミシガン湖畔の大学の弱小野球部に入部。たゆまぬ努力の甲斐あって、メジャーのスカウトたちの注目を集めるほどに成長するが、試合中の事件をきっかけに極度のスランプに。一方、チームはめずらしく連戦連勝。はたしてヘンリーに復活の日は訪れるのだろうか。緊迫した試合の模様や、ヘンリーのグラブさばきは息をのむばかり。勝負と技能のもたらす感動がストレートに伝わってくる。絶望の淵に沈んだヘンリーの姿はまさに青春の蹉跌そのものだ。血反吐を吐くような苦しみに張り裂ける心。過ぎ去った青春の嵐を思い出す読者もさぞ多いことだろう。こうしたヘンリーの人生にくわえ、チームメイトや、ゲイの相手、その恋人たちの人生もじっくり描きだされる。将来の夢、恋愛、友情、親子の愛など語られるテーマは定番で、夫婦のいざこざ、恋の鞘当てなどメロドラマの色彩もつよいが、当初は一見、無関係に思えた幾筋もの流れがしだいに結びつき、やがて主な人物が一堂に会し、クライマックスへと収斂していく展開はじつにみごと。「芸術的なさばきかた」によって、単純な物語の明快さを最大限に引きだしているのが本書の最大の美点だろう。