ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Siri Hustvedt の “The Summer without Men” (1)

 Siri Hustvedt の "The Summer without Men" を読了。アマゾンUKが選んだ今年のベスト小説のひとつである。さっそくレビューを書いておこう。

The Summer Without Men

The Summer Without Men

Summer Without Men

Summer Without Men

[☆☆☆★] 長年連れ添った夫が若い女と関係し、コロンビア大学で詩を教えていた妻は故郷のミネソタでひと夏を過ごすことに…と主筋を書けばわかるように、精神的危機に瀕した人間の魂の彷徨を描いた作品である。今までの人生の回想、自己同一性や存在の意味をめぐる哲学的な瞑想、夫や娘との書簡、メール、はたまた詩の引用など、叙述形式にさまざまな変化をつけ、年老いた母親や、その老人ホーム仲間の老女たち、隣りに住む若い母親とその幼い娘、開講した詩作教室で出会った地元の少女たちとの交流を巧みに織りまぜながら、絶望と煩悶の日々から再生への道を示すなど、古びたテーマに真摯に取り組んでいる点は大いに買える。が、いかに工夫を凝らそうとも斬新なアプローチとは言いがたく、新鮮味に欠けるぶん、回りくどくて退屈な「魂の彷徨」となっている。これでもっとドラマティックな展開があれば、とお門違いの注文をつけたくなった。英語は知的な文体で、内容にふさわしく難易度の高い語彙も散見されるが、総じて難解というほどではない。