ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

David Levithan の “The Lover's Dictionary” (1)

 今年のアレックス賞受賞作のひとつで、去年の米アマゾン年間ベスト10小説にも選ばれた David Levithan の "The Lover's Dictionary" を読了。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★] とてもおしゃれな作品だ。若い男と女が出会って恋に落ち、一緒に暮らしはじめる。そして……という陳腐きわまる物語なのに、構成の妙と語り口で読ませ、読後はあらためて、恋愛とは永遠に語り継がれるテーマなのだと実感させる。アイデアの勝利といえよう。辞書らしくAからZまでアルファベット順に見出し語が掲載、その単語にまつわるエピソードや恋人たちの思いが、ときにアフォリズムもまじえ簡潔に綴られる。甘美なひととき、愛の喜びはストレートに表現。摩擦や不安、失望などは微妙なことばで間接的に暗示。恋愛生活における喜怒哀楽がモザイクのように散りばめられている。過去と現在、あちこちに話が飛びながら大筋は時系列で、それが同時に単語のアルファベット順とは、なるほど妙案を思いついたものだ。その効果は巻が進むにつれ遺憾なく発揮され、やがて迎えた最後の単語 zenith。えぐりが鋭く、泣ける。