ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Andrew Miller の “Pure” (1)

 今年のコスタ賞最優秀作品賞に輝いた Andrew Miller の "Pure" を読了。例によってまずレビューを書いておこう。

[☆☆☆★] 1785年、パリ。田舎の青年技師ジャン=バプティスト・バラッテがヴェルサイユ宮殿に呼ばれ、ペストの大流行による死者が多数埋葬された古い墓地と教会の取り壊しを命じられる。本書はその悪戦苦闘ぶりを描いた歴史小説だが、せいぜいフランス革命前夜の裏話といったところ。革命の勃発を予感させる記述もあるものの、常識的な歴史観が感興を削ぎ、この裏話を読んだからといって目からウロコが落ちるようなことはまずない。革命を象徴する寓話と解しても、いまさらどんな意味があるのか不明。個々のエピソードは「レイプ、自殺、急死、友情、欲望、恋の一年」。コミカルだったりサスペンスフルだったり、けっこう楽しめるが、タイトルどおり純真な青年バラッテの「恋の一年」を除けば、突発的で尻切れトンボの事件がほとんど。読めば読むほど、べつにフランス革命が背景でなくてもいいのでは、と思えてくる凡作である。