ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Deborah Levy の “Swimming Home” (1)

 今日も "Narcopolis の落ち穂拾いができなくなった。同じく今年のブッカー賞候補作、Deborah Levy の "Swimming Home" を読みおえ、そのレビューを書くことにしたからだ。"Narcopolis" の記憶が薄れていくのが心配だ。なお、"Swimming Home" のぶんもあわせて、今まで読んだ候補作のレビューを7月26日の日記〈ロングリスト発表〉にまとめておきました。http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20120726

Swimming Home

Swimming Home

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[☆☆☆★] 夏の夜、フレンチ・リヴィエラの山道を疾走する車。別荘のプールで全裸で泳ぐ若い女。開幕早々、そんな派手なシーンが続出して幻惑されるが、やがて生と死という古典的なテーマが浮かびあがる。ただし、その提示のしかたはかなりトリッキーだ。上の女キティのほか、別荘に宿泊している有名な詩人とその妻子、友人夫妻などが交代で登場し、それぞれの人生模様が鋭いタッチで鮮やかに描かれる。夫婦のすれちがい、若者の恋、欲望、鬱屈した思い。観光地にふさわしく、いろいろなテーマで撮影された完璧なショットの連続である。そんな静かな光景のなかに突然、感情の嵐が吹き荒れる。キティがなんども異常な行動に走りながら詩人に急接近、冒頭シーンへともどる。その流れに巧妙なトリックが仕掛けられているわけだが、事件の核心がわかっても古典的なテーマだけにインパクトはさほどない。途中のみごとな映像効果が売りの水準作である。