ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2012年ギラー賞発表 (2012 Giller Prize winner)

 今日は Evelio Resero の "The Armies" について補足しようと思ったが、夜になっても仕事をしていたので時間がなくなった。おととい発表されたギラー賞のニュースでお茶を濁しておこう。まず受賞作は Will Ferguson の "419" だが、これは今のところ、ハードカバーしか出ていないようだ。

419

419

 それから、ぼくのアンテナに載せている海外ブログ KevinfromCanada によると、ブログ主の Kevin さんたちが毎年発表している Shadow Giller winner のほうは、Nancy Richler の "The Imposter Bride" に決定したとのこと。例年、本当の受賞作よりも、ファン投票で選ばれた作品のほうがおもしろいのでは、と思うことが多いので、こちらも要チェックだ。日本ではまだ入手困難かもしれないが、本国カナダではすでにペイパーバック化されている。ぼくも気が向いたら注文してみよう。
The Imposter Bride

The Imposter Bride

[☆☆☆☆] 親子の愛という凡庸なテーマが、じつは永遠のテーマであることを思い出させてくれる秀作。まずミステリアスな設定がいい。第二次大戦末、他人になりすまして戦禍を逃れたユダヤ人の女が戦後、カナダに移住して結婚。ところが、生後まもない娘を残して失踪してしまう。女は何者なのか。なぜ幸福な生活を捨てたのか。この謎を皮切りに、半世紀近い大河ドラマがはじまる。人物の視点の変化、場面の転換、時代の交錯がじつに鮮やかで、いろいろなストーリーが同時に並行して進む構成がすばらしい。どの人物もじっくり性格や心理、人生の軌跡などが書きこまれ、端役にいたるまで、書中の言葉を借りれば、複雑な「内面生活、すなわち魂」を有する存在として描かれている。これが重層的な構成と相まって物語に厚みを添えている。娘が母親を思うくだりなど、書きようによってはお涙頂戴式になりがちなものだが、本書の場合、素直に胸に響いてくるのも、この重厚な作風のたまものである。序盤の謎が解き明かされるにつれ、深い悲しみと強い愛情が表裏一体となっていることがわかる。逆説的にいえば、愛には悲しみが必要であり、不完全な要素があってこそ、愛は初めて完全なものとなる。そのことを痛感させてくれるがゆえに、本書における謎は、たんに奇をてらったものではなく、必然性のある謎なのである。英語は標準的で読みやすい。(13年2月25日)