きのうの夜ふけ、2009年のインディペンデント紙外国小説最優秀作品賞(Independent Foreign Fiction Prize)の受賞作、Evelio Rosero の "The Armies" を読みおえた。作者はコロンビアの作家で、スペイン語からの英訳である。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆☆] 衝撃的な結末にしばし呆然。文字どおり腰が抜けたようになった。目に見える事件もさることながら、目に見えない内面の真実に、心の奥底にひそむ獣性と、それをどこまでも疑う良心とのせめぎあいに圧倒されたのだ。ふりかえれば冒頭にも伏線はあった。舞台はコロンビアの田舎町。70歳の老人が隣家を覗き、美しい妻の全裸姿に目を細める。助平じいさんの楽しいエロ話かと思いきや、突然、左翼ゲリラが町を襲撃。銃が乱射され爆弾が炸裂するなか、直前まで老人と親しく会話をかわしていた人びとが次々に殺され、老人の妻も行方がわからなくなる。戦争小説の定石どおりながら、この不安と混乱、狂気はリアルで恐ろしく、小さな事件が徐々に惨劇へと発展する過程も迫力満点。が、緊張の一瞬でも老人は
若い女の色香に惑わされ欲情を覚える。一方、行方不明の妻を思う気持ちはつのるばかり。こういう人間の二面性を提示したところに本書の深みがある。やがて戦争の狂気は
マジックリアリズムの次元にまで高まり、そのあげく訪れる衝撃の結末。生死の境という限界状況の中でも人間のありのままの姿を見つめつづける目がそこにある。時に複雑な構文も見受けられるが、英語はおおむね標準的で読みやすい。