ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Adriana Trigiani の “Home to Big Stone Gap” (1)

 アメリカのベストセラー作家 Adriana Trigiani の旧作、"Home to Big Stone Gap" (2006) を読了。さっそくレビューを書いておこう。

Home to Big Stone Gap: A Novel

Home to Big Stone Gap: A Novel

[☆☆☆] ヴァージニアの山中にある小さな町 Big Stone Gap を舞台にした人情小説シリーズの最終作。旧作は未読だが、いままで出てきた主な人物を(故人の場合は回想形式で)再登場させ、昔の事件の後日談をまとめた総集編的な性格が強いように思われる。それゆえ、当初からのファンには魅力たっぷりかもしれないが、いきなり本書だけ読むと、たとえば家族の死がもたらす悲しみを乗りこえて生きる話など、いかにも通俗的だし、ステロタイプに近い善人しか登場しないのも興ざめだ。悲しみや絶望といかに向きあうかという人生の知恵も常識的なもので、さほど共感できない。何より後日談の総集編ゆえに焦点がぼけてしまい、強烈な主筋のないところがいただけない。が逆に、これだけ読んでも旧作の劇的な展開がしのばれるし、家族愛や友情、地域社会のつながりを描いたくだりはハートウォーミング。軽妙洒脱な会話やドタバタ騒ぎも楽しく、やはり旧作のすばらしさが想像できる。美しい自然描写しかり。要するに、本シリーズのファン向けの作品である。英語は方言や俗語がまじるものの、総じて標準的で読みやすい。