ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Mohsin Hamid の “How To Get Filthy Rich in Rising Asia” (1)

 Mohsin Hamid の新作、"How To Get Filthy Rich in Rising Asia" を読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★] まず着想がいい。タイトルどおり、あるアジアの国、おそらくパキスタンで金持ちになるためのノウハウが各章の冒頭で提示され、ついで主人公の男が各ステップを実践。それがそのまま男の人生を象徴する場面となり、ひいては貧困や混乱など、彼の住む社会全体の状況を端的に物語っている。ふつうに書けば、おもしろくもなんともない人生である。貧しい村で生まれた男が都会に出て悪戦苦闘の末に財を成し、さらに紆余曲折を経たのち、年老いて死んでいく。要はそれだけの話が蓄財術にかこつけて語られるや、じつに芳醇な小説的香りを発散。ユーモラスなエピソードが多く、時に身の危険にかかわる緊張が走り、ふと哀愁を帯び、ハートウォーミングで、しみじみとした情感がこもる。とりわけ、男が少年時代に恋をした女の子の物語が泣かせる。出会いと別れ、すれちがい、再会。このテーマが全篇にわたって通奏低音のように流れ、男の人生の節目節目に主旋律となる。ひるがえって、タイトルに直結した立身出世篇のほうはスケールが小さく、浮き沈みもふくめ常識的な展開になっている点が惜しい。