ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Rings of Saturn” 雑感 (1)

 この2週間、あれに手を出したり、これに目が向いたり、いろいろ読みかじってみたが、どうもしっくりするものと出会わなかった。疲労困憊の毎日で、通勤電車の中で活字を追いかけているとすぐに眠くなる。歳のせいで夜の10時を過ぎると寝床が恋しくなる、ということもあるが、それにしても巡り合わせがわるかった。
 思いあぐね、こんなときは名作巡礼の旅にでも出るか、ときのうから取りかかったのが W. G. Sebald の "The Rings of Saturn" (1995) である。
 え、あんた、ずいぶん遅れてますなあ、と嗤われそうだが、未読の名作・古典はほかにも山ほどあり、恥をしのんで少しずつ catch up するしかない。
 Sebald といえば、たぶん "Austerlitz" (2001) が代表作だろうが、これまた未読。いつか読もうと思っているうちに、Sebald の魅力について熱く語ってくれたのが、去る5月に早逝した文学青年A君だった。
 彼とは "Vertigo" [☆☆☆☆] についてぜひ話をしたかった。去年の夏、たいへん遅ればせながらようやく Sebald の世界にふれ、なるほどA君がハマったのもむりはないと納得。再会を楽しみにしていたのだが、突然の訃報に言葉をうしなった。優秀な若者が早死にするのはほんとうに惜しい。それにひきかえ、自分は無駄に長生きしているような気がしてならない。
 ずいぶん湿っぽくなってしまった。Sebald を読むと、どうしてもA君のことを思い出してしまうからだが、じつは作品世界そのものも関係しているかもしれない。例によって detail に次ぐ detail の展開であり、これほど細部にこだわる精神とは、よほど深い悲しみを奥底に秘めていたのだろう、と勝手に推測せざるをえない。悲しいときほど小さなものに目が向くからだ。そういう世界が、読んでいるぼくの心にも迫ってくるのである。