ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Rings of Saturn” 雑感 (2)

 おなじ作家の作品を読むのも2冊めとなると、初見のときには気づかなかったことも気になるものだ。
 去年読んだ "Vertigo" と同様、この "The Rings of Saturn" も一種のトラヴェローグの体裁を取っている。いまのところ舞台はイギリス、サフォーク州の田舎。主人公が小さな町や海岸などを巡り歩き、そこで目にした風物はもちろん、それから連想されるさまざまなことどもをマニアックなほど詳細に書き綴るというものだ。
 例によって写真や図版が随所に挿入され、ふむふむ、なるほど、と興味をそそられる仕掛けになっている。ああ、"Vertigo" とおなじだな、と最初のうちは気にも留めなかったのだが、やがてふと思った。作者は元の絵や写真をながめているうちに小説の構想を思いついたのだろうか。それとも、構想が先にひらめいてから、関連する資料を収集したのだろうか。
 どうも前者のほうが真相に近いような気がする。ただ、Sebald が現地で取材していることは間違いない。とすれば、主人公とおなじルートをたどっているうちにアイデアが浮かび、それにもとづいて資料を集めたのだと考えるほうが自然かもしれない。
 どうでもいい問題のようにも思えるが、あの風景、この景色、それらを目にして感じたこと、思い出したことが Sebald 自身にもあったにちがいない。すると、本書の内容はどこまで現実で、どこからフィクションがはじまるのか。それらをひとつの作品として提出しようとする意図は何だったのか。要するに、Sebald はどんなことを考えながらこの〈小説〉を書いたのか。
 書中の絵や写真をながめていると、そんな興味もかき立てられるのである。