ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Joan Silber の “Improvement”(2)

 きょうからしばらく愛媛の田舎に帰省。といっても、この記事はきのう書いたもので、家を出る前にアップした。
 結局、Esi Edugyan の "Washington Black" は予定日を過ぎても届かず、田舎から帰ってくるまで読めないことになった。ブッカー賞の発表(今月16日)に間に合わず残念。これでもし同書が栄冠に輝こうものなら踏んだり蹴ったりだ!
 閑話休題。Joan Silber の "Improvement"(2017)は今年の全米批評家協会賞受賞作だが、8月にペイパーバック版が出るまでずっと待っていた。いまや年金生活なので、毎月の洋書代は原則5千円以下と決めている。
 周知のとおり、全米批評家(書評家)協会賞は毎年3月、前年1年間に出版された英米の小説やノンフィクション、詩、評論などに与えられるもので、ぼくは小説部門にしか関心がないが、それでも経験上、すぐれた受賞作の多い賞だと理解している。2000年代のヒット率では、(重複する場合もあるが)ブッカー賞を上回っているのではないだろうか。(ただし、どちらも4冊未読)。
 だからこの "Improvement" も相当に期待して読みはじめた。
 な、なんじゃこれは! ほんとに協会賞の受賞作なのかな。読めば読むほど、自己啓発にまつわる「軽いテーマがユーモアをまじえた軽いノリで示される。キャラクターの造形も心理描写もあっさり。悩みはあっても些事にこだわらない人物ばかり顔を出す。いろいろな欠点が目につく作品」である。
 今年はたまたま去る3月、2001年の受賞作 W. G. Sebald の "Austerlitz"(☆☆☆☆★)を catch up しただけに、同書との落差に慨嘆せざるを得なかった。ほかにもっとすぐれた作品はなかったのかな。
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 そこで急遽、最終候補作を検索すると、Alice McDermott の "The Ninth Hour" だけ読み残していることがわかった。ほかは Mohsin Hamid の "Exit West"(☆☆☆★)、Arundhati Roy の "The Ministry of Utmost Happiness"(☆☆☆★★★)、Jesmyn Ward の "Sing, Unburied, Sing"(☆☆☆★★)。暫定的だが当然、Arundhati Roy の圧勝のはずだったような気がする。
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 とはいえ、上に挙げた技巧的な欠点はすべて、軽い「テーマにふさわしい長所とも言える」。落ち込んだときなど、人生なんとかなるものさ、と「深く考えず、スピーディーで手際のいい筆運びを楽しむべき」、気晴らしにはもってこいの文芸エンタメ小説ですな。
(写真は、愛媛県宇和島市の実家付近。この空地の前に老人介護施設が新築され、母の入居が決まったので帰省することになった)