ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Ann Patchett の "The Magician's Assistant" (1)

 この2ヵ月ほど体調不良をはじめ、〈厄月〉かと思えるほどトラブル続き。おかげで予定より大幅に遅れてしまったが、きのう何とか本書を読了した。1998年の旧オレンジ賞(現・女性小説賞)の最終候補作である。
 レビューを書くのも久しぶり。どんな駄文になるか怪しいものだが、これに取り組むことで、ボケた頭に少しは活をいれたいと思う。

[☆☆☆★★] 死んだ夫には妻以外、だれも身寄りがなかったはずなのに、なんと母と姉妹が生きていた。夫はなぜ家族のことを隠していたのか。この謎が解けるまで緊張感にあふれ、蠱惑的な展開が相当におもしろい。有名な魔術師だった夫はじつはゲイ、助手の妻とは名目だけの夫婦という設定もユニークで、物語に絶妙な変化が生まれている。現在のできごとに過去の状況がすっと紛れこむ手法もお手のもの。義理の母が録画していた昔のショーの鑑賞を通じて魔術師と助手の青春がよみがえり、過去と現在が一瞬のうちに交錯するハイライト場面など、あきれるほどうまい。が、そのあと尻すぼみ。姉妹とその夫や子どもたち、婚約者などがそれぞれ脇役を演じるエピソードも基本的にホームドラマで、どれも大きな意味をもたない。最後、助手だった妻自身がみんなの前で手品を演じるという愉快なシーンでもちなおすが、いまひとつ盛りあがりに欠ける。上のハイライトがあまりにも鮮やかすぎて、それに匹敵する山場の再現は、小説巧者パチェットの技量をもってしても至難のわざだったのかもしれない。