ずいぶん前に今年のベイリーズ賞(Baileys Women's Prize for Fiction:旧オレンジ賞)受賞作、Naomi Alderman の "The Power"(2016)を読み終えていたのだが、その後なかなかレビューを書く時間が取れなかった。おかげで、かなり印象がぼやけてしまった。
とはいえ、読了直後よりも客観的に作品を振り返ることはできるかもしれない。なんとか頑張ってレビューをでっち上げてみよう。
[☆☆☆★★] 近
未来社会を舞台にしたSF仕立ての男女抗争劇。
アメリカやアフリカ、中東など世界各地で突然、超能力をもった十代の少女が現われ、その電撃的なパワーでワルい男どもを撃退。やがて成人女性もスーパーウーマンとなり、暴徒化した猛女軍団と治安部隊との衝突を通じて次第に男性優位の社会が根底から揺らぎはじめる。複数の女が交代で主役をつとめ、それぞれ緊迫した場面を語りつぐスピーディーな展開は凄絶の一語。女性による逆差別、男性テロリストの襲撃にはじまる反乱とその鎮圧など、ますます
エスカレートする事態と平行して、女同士の個人的な対立抗争も劇的に描かれる。が、当初からイマイチ物足りない。いまなぜ
ウーマンリブ小説なのか、という説得力に欠けるからだ。社会的には依然、男女の不平等を是正する意味があるとして、それを文学の世界で訴えるなら、まず人間はそもそも平等な存在なのかと問いかけてはどうか。たとえば能力差はもちろん、迫害という名の不平等がある。神の前の平等、法のもとの平等というが、宗教や民族・国家が異なれば相手を軽蔑し、異端視する例はあとを絶たない。おのれを優位と見なすのは人間の本質かと思えるほどだ。とそんな思索でなくてもいいが、とにかく平等の問題についてあれこれ考えたうえでの
ウーマンリブ小説。それなら本書の豊かな物語性に必然性と深みが増したのではないかと愚考する。終盤、泥沼化した抗争劇を通じて、理想から虐殺が生まれるという人間の悲劇性が示されるものの暗示だけ。ゆえに薄味で尻すぼみ。話を広げすぎて収拾がつかなくなった作品といえそうだ。