ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Sophie Mackintosh の “The Water Cure”(1)

 今年のブッカー賞候補作、Sophie Mackintosh の "The Water Cure"(2018)を読了。さっそくレビューを書いておこう。(7月25日の候補作ランキング関連の記事に転載しました)

[☆☆☆] 豪雨や猛暑など異常気象が地球規模でつづく昨今、J・G・バラードなどの破滅テーマSFはもはや絵空ごととは思えなくなっている。本書第一部、三人の視点から少しずつ紹介されるのは、有毒ガスで覆われた本土から避難した一家が遠くの島で生活する近未来の終末世界。ミステリアスな状況で、叙述形式も奏功して興味を惹かれる。ところが第二部、男たちが島に漂着、大黒柱が不在で女だけとなった上の一家と対峙するくだりでトーンダウン。危機が高まるわけでも、波瀾万丈のサバイバル物語がはじまるわけでもない。第三部ともども終末世界というより、男性優位のディストピア的な社会にあって、女性が愛の試練を経ながら成長していく姿がメロドラマをまじえて描かれる。ディストピアの実態は曖昧模糊として恐怖をおぼえるものではなく、危険はむしろ人間自身の心のなかにあるという指摘も平凡。いっそ破滅テーマに徹したほうが、よほどおもしろかったのではないか。