ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

J.G. Farrell の “Troubles”(2)

 去年の国際ブッカー賞受賞作、Geetanjali Shree の "Tomb of Sand"(2018)を読んでいる。Shree はインドの作家で、ヒンディー語から英訳され同賞を獲得した小説は史上初とのことだが、なにしろ、ちょっとした辞書なみのぶ厚さで、何ページあるのかもコワくてチェックしていない。いまのところ、☆☆☆★★くらいのおもしろさか。
 一年遅れで同書に取り組むことになったのは(ぼくにしては早い)、先週読みおわった J.G. Farrell の "The Siege of Krishnapur"(1973)とのインドつながり。いちおう知ったかぶりでレビューを書いたけど、あちらは1857年から同58年にかけて起こった、恥ずかしながら初耳のインド大反乱(昔は「セポイの反乱」と呼んだそうだ)を描いたものだった。
 それが Farrell の Empire Trilogy の第二作で、2010年に Lost Man Booker Prize を受賞した "Troubles"(1970)は第一作。両書ともざっと半世紀遅れのトライだったわけだが、いつかも書いたように、ぼくは学生時代、ブッカー賞なんてついぞ聞いたことがなかった。同期の友人たちはおろか、先輩後輩、先生がた、だれひとり話題にしなかった。
 よってもちろん、当時のイギリスでどんな扱いだったのかも不明だが、いまやまちがいなく大人気。毎年賞レースがはじまると徐々にヒートアップし、受賞作の発表日にはたいへんなお祭り騒ぎとなる。それどころか、発表の翌日にはもう、つぎの年の「ロングリスト候補作」予想が出る始末。あ、たぶん翌日です。
 それからその翌日だったか当日だったかには、いままでの受賞作ランキングも更新。カンカンガクガクというほどではないけれど、いろんな現地ファンがいろんな意見を述べている。好きだなあ、としかいいようがない。
 しかもありがたいことに、それぞれの意見を集約した総合ランキングまで発表するファンもいる。集計のしかたによって結果がわかれるようだが、以下、ベストテンだけでもコピペしておこう。(ついでにぼくの評価も添えました)。

(第1集計)
1, The Remains of the Day by Kazuo Ishiguro(☆☆☆☆)
2, Troubles by J. G. Farrell(☆☆☆☆★)
3, The Siege of Krishnapur by J. G. Farrell(☆☆☆☆★)
4, The Sea, the Sea by Iris Murdoch(☆☆☆☆)
5, Bring Up the Bodies by Hilary Mantel(☆☆☆★★)
6, The Line of Beauty by Alan Hollinghurst(☆☆☆)
7, Midnight's Children by Salman Rushdie(☆☆☆☆★)
8, Moon Tiger by Penelope Lively(☆☆☆☆)
9, The God of Small Things by Arundhati Roy(☆☆☆☆)
10, Disgrace by J. M. Coetzee(☆☆☆☆)

(第2集計)
1, The Remains of the Day by Kazuo Ishiguro(☆☆☆☆)
2, Bring Up the Bodies by Hilary Mantel(☆☆☆★★)
3, The Sea, the Sea by Iris Murdoch(☆☆☆☆)
4, Wolf Hall by Hilary Mantel(☆☆☆☆★)
5, Midnight's Children by Salman Rushdie(☆☆☆☆★)
6, Troubles by J. G. Farrell(☆☆☆☆★)
7, The Siege of Krishnapur by J. G. Farrell(☆☆☆☆★)
8, The Line of Beauty by Alan Hollinghurst(☆☆☆)
9, Disgrace by J. M. Coetzee(☆☆☆☆)
10, Moon Tiger by Penelope Lively(☆☆☆☆)

 このなかには、なるほどなあ、とぼくも納得できる作品もあるが、"The Line of Beauty" の人気が高いのには驚いた。一方、ここで紹介しなかった下位グループでは、"The Inheritance of Loss"(☆☆☆☆★)が51位と55位。こちらも意外。タデ食う虫も好き好き、といいたいところだけど、十人十色、文学にはいろんな見方があっていいと思う。
 それにしても、"Troubles" と "The Siege of Krishnapur" が上位にランクインしているのにはまったく同感。だって、傑作秀作ですからね。長くなりそうなので、きょうはおしまい。

(下は、この記事を書きながら聴いていたCD)

ブラームス:ピアノ協奏曲第2番