ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Olga Tokarczuk の “Flights”(2)

 最終的な評価は☆☆☆★★にしたけれど、途中はこれ、かなり退屈な本だった。ソファに寝転がって読んでいると、ついウトウト。目が覚めると、聴きはじめたはずのブルックナーがもう終わり、ということがよくあった。ブルックナーがいけなかったのかな。
 もちろん、面白い断章もちらほら混じっている。その主な例はレビューで簡単に紹介したとおり。中でもぼくが共感を覚えたのは、「日常生活からの逃走というフライト」。不治の病に冒された息子をもつ母親が家を飛び出し、朝から晩までモスクワ市内の地下鉄を乗り継ぎ、何日か放浪を続ける。
 あるいは、親子3人でクロアチアのリゾート地の島を訪れたとき、妻と息子が突然姿を消し、そのまま行方不明。これには続編があり、その後3人はまた一緒に生活しているが、夫が妻に島での行動を問いただすと答えは不得要領。それどころか、妻はふたたび息子を連れ出奔してしまう。理由は明示されないが、これも flight from everyday life のひとつだとぼくは思います。
 そんな誘惑に駆られること、うん、あるある。今やそれを実行に移すにはかなり勇気が必要だけど、たとえば気楽な身分だった学生時代には、東京での生活がイヤになり、大阪や愛媛の松山にいる友人の下宿(いまや死語?)に転がりこんだものだ。
 いや待てよ、今のぼくの生活自体、flight from everyday life かも。じつは非常勤の話もあったのにシンドくて、断わってしまった。ぜいたくな話ですみません。(この項つづく)
(写真は愛媛県宇和島城。通称「社保」に入院していたころの亡父は、病室から毎日これと似たような風景を眺めていたはず。社保の許可を得て撮影)