ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Marieke Lucas Rijneveld の “The Discomfort of Evening”(2)

 このところ家の掃除で大忙し。かなり疲れるが、それでもあちこち動きまわれるのは、たぶんコロナにかかっていない証しだろうと思うとひと安心。2番目の孫ユマちゃんの初宮参りで鶴岡八幡宮に出かけたのが、ちょうど2週間前だからだ。
 掃除がひと区切りついてから読んでいるのが、今年の全米図書賞受賞作、Charles Yu の "Interior Chinatown"。わりと面白い。いまのところ、☆☆☆★★(★)くらいか。たまたま先月読んだ去年の受賞作、Susan Choi の "Trust Exercise"(☆☆★★★)よりずっといい。どちらもメタフィクションの技法を駆使した作品だが、"Chinatown" の場合は、その使いかたに明確な意味と必然性がある。それを説明すると長くなりそうなのできょうは省略するけれど、とにかく今後の展開次第では、ほんとうに★をひとつ追加することになりそうだ。
 閑話休題。今年のブッカー国際賞の最終候補作に Yoko Ogawa の "The Memory of Police"(『密やかな結晶』)が選ばれていたことは、恥ずかしながらしばらく知らなかった。今年から、同賞は受賞作のみ追いかけることにしたからだ。
 いま書棚を調べると、小川洋子の作品は既読4冊、未読4冊。『密やかな結晶』は所持していなかった。これまでいちばん印象にのこっているのは、ご存じ『博士の愛した数式』だが、『妊娠カレンダー』もけっこう面白かったおぼえがある。 

妊娠カレンダー (文春文庫)

妊娠カレンダー (文春文庫)

 

  そんな記憶だけで言うのもなんだが、受賞した "The Discomfort of Evening"、ほんとうに "The Memory of Police" よりすぐれた作品なのだろうか。
 むろん美点はある。ぼくがいちばん評価するのは、ヒロインである10歳の少女 Jas の心の動きを、美醜両面からとらえていること。性善説に発するのかなにか知らないけど、子どもを純真な存在としてのみ描く作家は二流三流である。ところが、Jas はこう述懐している。I've got two sides too ― I'm both Hitler and a Jew, good and evil.(p.257)彼女がどこまで Hitler and a Jew のことを理解しているかはさておき、「心に善悪両面があることを自覚し」ているのは明らかだ。
 ただ、いかんせん繰りかえしが多すぎる。「子どもらしい残酷さ、怒り、自己中」などとぼくがメモしたくだりは計6ヵ所。最初のうちこそ、これはイケると思ったものの、いちばん上の兄を亡くした心の痛みや、悲嘆にくれる両親への気づかいともども、二巡したところで飽きてしまった。経過報告にも書いたが、これ、短編ネタですな。結末が結末だけに、短編だったら最低でも☆☆☆★★★だったでしょう。