ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Charles Yu の “Interior Chinatown”(1)

 きのう今年の全米図書賞受賞作、Charles Yu の "Interior Chinatown"(2020)を読了。さっそくレビューを書いておこう。 

Interior Chinatown: WINNER OF THE NATIONAL BOOK AWARDS 2020

Interior Chinatown: WINNER OF THE NATIONAL BOOK AWARDS 2020

  • 作者:Yu, Charles
  • 発売日: 2020/11/05
  • メディア: ペーパーバック
 

 [☆☆☆★★★] アメリカにおける移民の歴史と現状といえば、文学の題材としてはかなり古いものだが、中国系移民を本格的に扱った小説はそれほど多くないかもしれない。本書の場合、その希少性にとどまらず、メタフィクションの技法を駆使することで、通常のフィクションよりも明らかに的確かつ効果的に問題の本質をえぐり出した、ほかに類を見ない独創的な作品である。舞台はアメリカのチャイナタウン。中華料理店にセットされたTV刑事ドラマ『ブラック&ホワイト』の脚本に混入しながら、若き俳優ウィリス・ウーとその家族の直面した現実が描かれる。ドラマは題名が示すようにアメリカ社会の象徴であり、ドラマのなかで起こる事件は中国系移民の社会的立場を反映している。ウーによれば、彼らは二百年の移民の歴史を有しながら、ヨーロッパ系移民とは異なり、昔も今もアメリカ人として認識されず、アジア人という総称のもと、十把一絡げに扱われているという。ウーはその総称を体現するエキストラから出発し、カンフーの達人として主役を張ることを夢見るものの、悲しいかなカンフー達人もまた、白人にとってはアジア人の総称のひとつにすぎないことを知る。かくて中国系移民はついにステロタイプのまま、アメリカ社会から与えられた型どおりの役を演じつづけるしかない。この社会的役割意識がすなわち「内なるチャイナタウン」なのである。それゆえウーにとって現実と演技の区別がつかなくなるのは理の当然であり、これを表現するうえでメタフィクションは必然的に最適の技法である。ドラマの脚本形式だけにユーモア全開とはいえないものの、当初からコミカルな逸話がちりばめられ、終幕の裁判劇は『不思議の国のアリス』を思わせる、風刺のきいた不条理劇。これはまさに移民の歴史と文化が生みだした悲喜劇そしてメタフィクションである。