ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

J.G. Farrell の “Troubles”(3)

 とにかくイギリスの文学ファンはブッカー賞が大好きだ。一次候補作の発表前から入選予想で盛りあがり、過去の受賞作ランキングを披露しあうなんて、わが芥川賞直木賞では、いやピューリツァー賞だって考えられない事態だろう。
 それかあらぬか、ブッカー賞財団のほうも商売熱心で、これまで三回、オールタイム・ベストを発表している。
 まず1993年、創設25周年を記念した Booker of Bookers。このときは Salman Rushdie の "Midnight's Children"(1981 ☆☆☆☆★)が受賞。最終候補作は発表されなかったようだが、チェック洩れかもしれない。
 ついで2008年、創設40周年記念賞は the Best of the Booker。受賞したのはやはり "Midnight's Children" だが、つぎに挙げたほかの最終候補作を見ると、個人的には Farrell か Carey でもよかったのでは、と思う。好みでいうなら Carey。

  "The Siege of Krishnapur" by J.G. Farrell(1970 ☆☆☆☆★)
  "The Conservationist" by Nadine Gordimer(1974 ☆☆☆★★)
  "The Ghost Road" by Pat Barker(1995 ☆☆☆☆)
  "Oscar and Lucinda" by Peter Carey(1988 ☆☆☆☆★)
  "Disgrace" by J.M. Coetzee(1999 ☆☆☆☆)

 そしていちばん新しいのが2018年、創設50周年記念賞の the Golden Booker Prize。このときはじめてファン投票が実施され、Michael Ondaatje の "The English Patient"(1992 ☆☆☆☆)が受賞。ただ、最終候補作はあらかじめ選考委員が年代ごとに選んでいて、

 1970年代 "In a Free State" by V.S. Naipaul(1971 ☆☆☆☆)
 1980年代 "Moon Tiger" by Penelope Lively(1987 ☆☆☆☆)
 1990年代 "The English Patient"
 2000年代 "Wolf Hall" by Hilary Mantel(2009 ☆☆☆☆★)
 2010年代 "Lincoln in the Bardo" by George Saunders(2017 ☆☆☆★★★)

 ぼくは実際に投票こそしなかったけれど、本ブログで結果を予想。"Wolf Hall" を推したが、みごとに外れた。

 その記事でも紹介したように、この選考方法については異論が百出。最初からファン投票にすべきだ。"Midnight's Children" が候補になっていないのは過去の結果からしておかしい。ぼくもそのとおりだと思い、個人的なオールタイム・ベストとして、Barry Unsworth の "Sacred Hunger"(1992 ☆☆☆☆★)を挙げた。ついでに、受賞作ではないが David Mitchell の "Cloud Atlas"(2004 ☆☆☆☆★)を第二位に選定。
 まあ、"Cloud Atlas" のほうはヘソ曲がりゆえの座興だったけれど、"Sacred Hunger" にかんしては、いまだにマイベスト。2018年以降も新旧いろいろな受賞作を読んだが、あれをしのぐ作品にはあいにく出会ったことがない。
 ただ、表題作の "Troubles"(1970 ☆☆☆☆★)とは僅差の勝負だろう。上の the Golden Booker Prize では70年代の個人的な最終候補作として、Iris Murdoch の "The Sea, the Sea"(1978 ☆☆☆☆)を選んだのだけど、当時はまだ "Troubles" は未読。それをなんとか読みおえた現在、これこそ(まだ四冊読みのこしているが)あの年代の代表作にふさわしいのでは、と考えをあらためている。

(下は、この記事を書きながら聴いていたCD)

ブラームス:弦楽六重奏曲第1番