今週から、ほぼ1年半ぶりにジムでワークアウトを再開。休会中、目・腰・胃・肩とつぎづぎに不調をきたし、いまは胃がいちばん気になる。またしても逆流性食道炎の再発らしい。運動だけで改善すればいいのだけど。
さて、久しぶりにブッカー賞最終候補作の現地ファンによるランキングをチェックしたところ、表題作は1番人気。ついで、"The Promise" と "A Passage North" が2・3番争い。せっかく入手したものの、大作につきパスしている "Great Circle" は6番人気となっている。
ぼく自身のランキングはつぎのとおり。
1. The Promise(☆☆☆★★★)
2. A Passage North(☆☆☆★★)
3. The Fortune Men(☆☆☆★)
4.
5. Bewilderment(☆☆☆)
6. No One is Talking About This(☆☆★★★)
べつに確たる理由はないが、"Great Circle" が4位に入りそうな気がする。もし栄冠に輝けば読むつもり。落選したら、未読につき番外となりそうだ。
ぼく個人の評価とちがって、"Bewilderment" が一般に好評なのは、まあ理解できる。技巧的にいちばんすぐれた作品だからだ。
せんじ詰めると「シングル・ファーザー奮戦記」なのだが、設定された時代は近未来。「あの名物大統領が事実とちがって再選され、政治的に一種のディストピアと化した」アメリカ社会が舞台となっている。
その理由はおそらく、主人公の宇宙生物学者 Theo と亡き妻 Alyssa、それから息子の Robin が参加する最先端の脳科学実験にあると思う。そこで使用される装置を通じて Theo と Robin は、Alyassa が生前いだいていた感情を追体験。現在でも実際、似たような感情記録装置はあるのかもしれないけれど、本書で描かれているものはたぶんSF仕立てだろう。そのため近未来の話でなければならないわけだ。他人の心という、およそつかみにくいものを可能なかぎり把握する。それがねらいのようだ。
じつに魅力的な設定ではあるが、実験は読んでいて予想がつくとおり成功せず、ひとの心はわからないもの、という平凡な結論しか得られない。つまり「超えがたい溝を超えて親子は、人間はほんとうに理解しあえるのかという問題」については「どうも突っ込み不足。そのため知的昂奮をおぼえることがほとんどなく、最新の科学知識もただの飾り、目くらましのように思われる」。
前作 "The Overstory" でも感じたことだけど、Richard Powers は鬼才といってもいいほど優秀な作家であり、着想はすばらしいのだが、深い感動をおぼえることはない。上記のような突っ込み不足が原因だと思う。
この "The Overstory" 同様、"Bewiderment" にもエコロジーの話が出てくる。その思想的源流はどうやら Thoreau にあるようだ。"The Overstory"では civil disobedience の話題が採りあげられていたし、"Bewilderment" の冒頭や終盤に出てくる森のなかのシーンは "Walden" を思わせる。
しかし Thoreau や Emerson がちょうど Melville や Hawthorne とくらべると浅薄な作家であったのと同じように、Richard Powers も上のディストピアの説明なんぞを読んでいると、がっくりするほど浅い。
ただし、くりかえすが、"Bewilderment" は技巧的にはすぐれた作品である。Theo と Alyssa、Robin の三人の出し入れひとつとっても、それはすぐに納得できよう。その点、ぼくが1番に推した "The Promise" など、とりわけ前半の目まぐるしい視点変化が煩わしく、いかにも洗練度が足りない。しかし、熱いものがある。ぼくはそういう作品のほうが好きだ。
(下は、この記事を書きながら聴いていたCD)