このところ、ペルーの著名な作家 Isabel Allende の "The House of the Spirits"(1982, 英訳1985)をボチボチ読んでいる。未読の今年のブッカー賞候補作を入手するまでの場つなぎに(途中で乗り換える可能性あり)、と思って取りかかった。
開幕から物語性豊かな作品で、たしかにおもしろいことはおもしろいのだけど、期待していた、あのラテアメ文学独特のマジックリアリズムとはどうもちがう。これ、ふつうのリアリズムじゃん、というのが第一印象。が、やっといま、タイトルどおりマジックリアリズムらしい要素がまぎれこんできた。ただ、リクツのあるマジックという気もするのだけど、どうなんだろう。
閑話休題。現地ファンの下馬評をチェックすると、表題作は "The Seven Moons of Maali Almeida"(未読)、"The Trees"(☆☆☆★)とならんで、ブッカー賞レースの上位グループを形成している。とそう知ってもあまりテンションは上がらないのだが、ぼくもいちおう暫定ランキングを発表しておこう。(空白に未読作が入るものと期待)。
1. Small Things Like These(☆☆☆★★★)
2.
3.
4.
5. The Trees(☆☆☆★)
6. Treacle Walker(☆☆☆★)
ロングリストの発表前、いつだったか現地ファンのコメントを読んでいたら、ロシアのことが背景にあるせいか、「今年の候補作のうち、ディストピア小説はどれくらいの割合を占めるだろうか」という予想が話題になっていた。その結果は見過ごしてしまったけれど、ぼくの独断と偏見によれば、ディストピア小説ではなく、ウクライナ侵攻問題についてどう考えるか、という点からも読み解ける作品が多いように思う。本書もそうだ。
これは「隣人愛を静かに謳った感動のクリスマス・ストーリーである」。「感動の」というのは宣伝文句ではなく、ぼくはほんとうに目頭が熱くなった。「自己犠牲ほどむずかしい善行はない」が、これほどひとの胸をうつ善行もまたほかにないだろう。
もしかしたら自分を犠牲にして他人のために尽くした最たる例はイエス・キリストかもしれない。それゆえ本書のような作品が、あちらでは高く評価されるのだとも考えられる。
が、現実にはやはり、「自己犠牲ほどむずかしい善行はない」。ウクライナへの欧米の支援ひとつとっても、それぞれの国はまず自国の利益を考え、国益にかなうという条件つき、ないしはその範囲内で援助をおこなっているようだ。自国を犠牲にしてまでウクライナを助けようとしている国はひとつもない。
とそんなふうに「針小棒大に解釈すれば、(本書は)昨今の国際情勢にも通じる道徳的問題をはらんだ現代版『クリスマス・キャロル』である。(主人公の)ビルはスクルージとちがってエゴイストではないだけに『話そのものは単純』だが、これを読んで心を動かされないひとはたぶん、いないだろう」。
だからぼくも暫定1位に格付け。本書が先頭争いを演じていることに異論はない。その内容どおり、シンプル・イズ・ベストということか。
(下は、この記事を書きながら聴いていたCD)