ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Alan Garner の “Treacle Walker”(2)

 Isabel Allende の "The House of the Spirits" をボチボチ読んでいたら、Elizabeth Strout の "Oh William!" が到着予定日よりずっと早く届いてしまった。試読したところ、どうもイマイチ。Allende のほうは相変わらずおもしろい。印象が希薄になるのがいやなので、実際やれるかどうかわからないし、ペース配分もむずかしそうだけど、2冊同時に読むことにした。
 とそこへ、Shehman Karunatilaka の "The Seven Moons of Maali Almeida" も到着。日本での注文がなぜかキャンセルされ、急遽アマゾンUKに速達便で発注したもので、こちらは早く届いて当たり前。しかし、さすがに3冊並行して読むのはむりだろう。
 それにしても、洋書にかんするかぎり日本経由の注文は、到着日の変更があったりキャンセルがあったり、どうも当てにならないことが多い。そう思うのはぼくだけだろうか。
 閑話休題。表題作は今年のブッカー賞最終候補作だが、ロングリストの段階では下馬評はそれほど高くなかった。が、以前からわりと信頼している現地ファンのひとりが1位に格付けしていたのでゲット。ところがその後、彼はショートリストの予想では本書を挙げていなかった。理由は不明。やはり、ひとは当てにならないということか。

 ともあれ、これはぼくにはどうもピンとこなかった(☆☆☆★)。少なくとも、"The Colony"(☆☆☆☆)を押しのけてまでショートリストに選ばれるほどの出来とは思えない。
 ただし、それはぼくの偏見によるところも大きいはずだ。Alan Garner といえば有名なファンタジー・児童文学作家で、『ブリジンガメンの魔法の宝石』(1960)や、『ふくろう模様の皿』(1967)など、ぼくも図書館でパラパラ読んでみたことがある。が、ハリポタをはじめ、ぼくは食わず嫌いのせいか、そもそもファンタジーにはあまり興味がない。今回も、Alan Garner の作品と聞いただけで、読む前からちょっと引いてしまった可能性はなきにしもあらず。
 さて、本書の題辞は、イタリアの理論物理学者 Carlo Rovelli の Time is ignorance ということば。ふつう題辞など目もくれないところだが、本文のつぎの一節もどうやら Rovelli に関係するらしいと、調べているうちに気がついた。To hear no more the beat of Time. To have no morrow and no yesterday. To be free of years.(p.151)
 主人公の少年 Joe に What is it you want most?(ibid.)と訊かれたクズ屋の Treacle Walker の答えだが、これがカルロ・ロヴェッリの世界的ベストセラー『時間は存在しない』に由来するようなのだ。理系オンチのぼくはもちろん、なにもかも初耳。このくだりに引っかかりを感じなければ、題辞に戻ることも、ロヴェッリについて検索することもしなかっただろう。ついでに上のベストセラーにかんする解説も読んでみたが、よくわからなかったし、いまや憶えてもいない。
 憶えているのは、本書の内容が「謎と矛盾、パラドックスに満ちたカオスそのものである」ことだけ。その典型例はレビューに挙げておいた。ひとつだけ繰りかえすと、What's out is in; what's in is out.(p.73)という、Joe が出会った沼地の住人 Thin Amren の発言。Treacle Walker もまったく同じセリフを発している(p.79)。まさに本書のカオスを象徴することばだと思う。
 このカオスの世界に上の時間理論を持ちこんだのが本書である。ぼくは読後、「時間、および時間とともに変容する空間の本質がいわば、おもちゃ箱をひっくり返したようなもの」かもしれないと、わけがわからないまま思ったのだけど、たぶん当たらずしも遠からず、といった程度の理解でしょうな。(この項つづく)

(下は、この記事を書きながら聴いていたCD。オッコ・カムのTDK盤のほうがいいと思ったけど、なぜかアップできなかった)