ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Elizabeth Strout の “Oh William!”(1)

 二兎を追う者は一兎をも得ず。2冊同時に読んでいると、わかりきった話だが、どちらもふだん以上にスローペース。それでもなんとか、きのう今年のブッカー賞最終候補作、Elizabeth Strout の "Oh William!" のほうをまず読みおえた。女流作家 Lucy Barton シリーズの近作である。さっそくレビューを書いておこう。(追記:初出の段階では「第三スケッチ集」としるしましたが、シリーズ二作目の "Anything Is Posiible" では Lucy 以外の人物も主役をつとめるので、その後「第二スケッチ集」と訂正しました)

[☆☆☆★] 女流作家ルーシー・バートンが自身の波乱に富んだ家庭生活と結婚生活を綴った第二スケッチ集。繊細で多感なルーシーの目は、今回もまるで細部をいとしむかのように日常茶飯のできごとをとらえ、過去をふりかえり、そこに人生の小さな真実を読みとり、その積み重ねがやがて家族の絆、愛と幸せという普遍的なテーマへと収斂していく。おなじみのパターンで、扱われる事件も親子の別離、夫や妻の不倫、離婚など悲痛なものが多く、やはり旧作とさほど変わりばえしない。新工夫といえるのは、再婚相手に先立たれ途方にくれるルーシーが、同じく人生の危機を迎えた最初の夫ウィリアムの哀れな姿を目のあたりにして、「おお、ウィリアム!」となんどか心のなかで叫ぶところ。いちおう感動的な場面だが、旧作で彼女がいくつか経験した忘れえぬ瞬間とくらべると見劣りがする。ドラマ性を排するのは作者ストラウトの身上だが、細部に共感をおぼえることはあっても、細部だらけで盛り上がりに欠ける点は否めない。悲しみをこえて愛の絆を求める流れも、わるくはないがパンチ不足。いかにも「小さな説」らしい小説である。