ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Shehan Karunatilaka の “The Seven Moons of Maali Almeida”(3)

 この一週間、活字からほとんど離れていた。寝しなに『かがみの孤城』を読んでいたくらい。(一ヵ月以上もかかって、やっと文庫本上巻の半分まで到達。これから面白くなるのかもしれないけれど、相変わらず、つまらない)。
 ひと息いれたわけは、ブッカー賞の発表があり、例年どおり同賞の回顧と最終ランキングの記事もアップしたことで、今年最大の読書目標を達成。緊急に読みたい本がなくなった。
 気になる積ん読本は山ほどあるが、どれも大作だったり、見るからに難物だったり。気になるといえば、中断している "The House of the Spirits"。間があきすぎて、どうも食指が動かない。などなど考えているうちに、いつのまにか一週間たってしまった。
 閑話休題。表題作はぼくのいい加減な予想どおり、今年のブッカー賞を受賞。その結果を知っても、べつに評価を変えようとは思わない(☆☆☆★★)。前回(2)のおさらいをしておくと、2017年のブッカー賞受賞作、George Saunders の "Lincoln in the Bardo"(2017 ☆☆☆★★★)と比較した場合、内容的にはほぼ互角。しかし言語芸術としては、同書のほうが一枚上だと思う。

 "Seven Moons .... " は途中まで、かなり面白かった。だから、この「狂乱のゴースト・ストーリー」をどう締めくくるのか期待しながら読んでいたのだけど、ううん、最後がどうも。「ミステリ仕立てでもありネタは明かせない」のだが、肩すかしのひとことに尽きる。しかも、そのクライマックスのあと、さらにダラダラ混乱がつづく点もいただけない。
 読後にすぐ思い出した本がある。Graham Greene の "The Human Factor"(1978 ☆☆☆☆★)だ。

The Human Factor

 愛と政治を扱った点で "Seven Moons .... " と共通しているのだが、あちらはさすがに巨匠らしい傑作だ。祖国愛か家族愛か、という通俗的なテーマをみごとに処理している。
 ところが "Seven Moons .... " のほうは、スリランカ内戦と戦後政治の現実を見つめるのが、プレイボーイのゲイの亡霊というユニークな設定をうまく生かし切っていない。愛と政治のバランスがイマイチよくない、というか両者がバラバラ。そしてなにより、Greene 先生のように「通俗的なテーマ」を通じて、読者に人間性についてしっかり考えさせることがない。本書を読んで「最後がどうも」というひと、たぶん多いんじゃないかと思います。
 きょうはほんとうは、本書と今年のブッカー賞最終候補作 "Treacle Walker"(2021 ☆☆☆★)を較べようと思ったのだけど、もうその時間がなくなってしまった。そろそろ寝るとしよう。(つづく)