ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Tatiana de Rosnay の "Sarah's Key"(1)

 昨日、Tatiana de Rosnay の "Sarah's Key" を読了。一日たって、だいぶ冷静に考えられるようになったが、読みおわった直後はしばし目頭が熱くなった。
 追記:その後、本書は映画化され、2010年に日本でも「サラの鍵」として公開されました。

[☆☆☆★★] 第二次大戦時における、またひとつ明らかになったユダヤ人迫害の史実と、それを知った後世の人間の苦悩。よくある話だが、本書には斬新な点がある。まず、ここでユダヤ人を迫害したのがナチスではなく、たしかにその命令は受けていたものの、むしろ率先してアウシュヴィッツへと送りこんだのがフランス人であったこと。一般には知られざる事実だろう。ユダヤ人への差別意識がさほどに高じていたことに愕然となる。突然のユダヤ人狩りに遭い、弟と生き別れになったサラがどんな運命をたどったか。その後の流れは定石どおりだが、弟や両親への思いで胸が張り裂けそうになるサラの心情がリアル。これと並行して60年後、上のユダヤ人狩りを調査するパリ在住のアメリカ人女性記者ジュリアの物語が描かれる。在仏25年、フランス人男性と結婚して子供もいるのに相変わらず溶けこめず、いままた妊娠をきっかけに夫婦生活の危機。こんな話はふつう、主筋に変化を添える間奏曲に過ぎないものだが、ふた筋の流れがひとつに交わったあと、ジュリアの個人的問題が昔の事件の取材を通じてさらに増幅し、複雑な様相を帯びる。いわばホロコースト小説と家庭小説のミックスであり、現代の家庭問題を通じてホロコーストを後世の人間としてどう受けとめるか、という視点が目新しい佳篇である。

 …1ヵ月ほど前、ニューヨーク・タイムズのベストセラー・リストに2週間ほど載っていた本だ。これも「当たり」のほうである。