ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Sadie Jones の "The Outcast"(1)

 今年のコスタ賞最優秀新人賞作品、Sadie Jones の "The Outcast" を読了。ずっと以前から気になっていた本だが、もっと早く読むべきだった。さっそくレビューを書いておこう。

The Outcast

The Outcast

[☆☆☆★★★] 純真で繊細、愛情に飢えた傷つきやすい心の揺れ動きをみごとに描いた青春小説。57年夏、イギリスの村に19歳の少年ルイスが刑務所から帰ってくる。が、父親は冷たく、母親らしい女性もぎこちない態度。彼は何をしたのか。やがて話はほぼ10年前にさかのぼり、ルイスが幼いころに体験した悲劇が明らかになり、彼を取り巻く友人たちの人物像も見えてくる。この時点で本書全体の大まかな展開と結末は予想がつくのだが、それでも夢中で読みふけった。まず、いささか類型的ながらルイスの境遇につい同情してしまうし、深く傷ついたルイスと周囲の大人や子供たちとの緊張が次第に高まり、やがてルイスが火山の爆発を思わせるような行動に走る。その各山場の盛り上がりがすごい。酒、煙草、喧嘩、セックス…どれも定石どおりと高をくくっているうちに、思わず目を疑うような場面もある。とりわけ、終盤の畳みかけるような展開が迫力満点。そういう物語性のすばらしさに加え、おなじみのテーマだが、「純真で繊細、愛情に飢えた傷つきやすい」者同士の結びつきにはやはり心を打たれる。英語は平易でとても読みやすい。