ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Lucinda Riley の “Hothouse Flower”(1)

 イギリスのベストセラー小説で Richard & Judy Book Club の今春の推薦図書、Lucinda Riley の "Hothouse Flower" を読了。さっそくレビューを書いておこう。

Hothouse Flower

Hothouse Flower

[☆☆☆★★] 親子の愛、男女の愛を主題にすえた大河小説の佳作。キャラクターの造形や情景描写、人物同士の会話などはいささか類型的で、70年近い時を隔てて過去と現在の物語が平行して進み、2つの流れが最後に交わって大団円を迎えるという展開も定石どおりだが、物語の内容としては大いに波瀾万丈で面白く、通勤時の読書にはもってこいだろう。現代編の主な舞台はイギリス、ノーフォークで、何やら悲劇に見舞われたらしい有名な女性ピアニストが、幼いころの思い出の貴族の館で青年当主と再会。それをきっかけに話は第二次大戦前へとさかのぼり、当時の主の息子をめぐるロマンス、さらには戦後、息子がタイのバンコックで味わった悲痛な体験が明らかにされる。紆余曲折を経ながら、現代の日常茶飯とも言える家族の悲劇と、血筋と格式を重んじる貴族ならではの過去の悲劇が次第に融合していく過程が読みどころ。全貌が見えてきた終幕近くで予想外のひねりを加えるなど作者のサービス精神は旺盛で、タイトルどおり、館の敷地内にある温室のランの花が全編の象徴となっている点がすばらしい。英語は平明で非常に読みやすい。