ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Ruta Sepetys の “Between Shades of Gray” (1)

 今日は土曜出勤だったが、帰りのバスの中で何とか読了。ノンフィクションなどもふくめ、アマゾンUKが選んだ10冊の Best Books of 2011 のひとつである。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。(追記:本稿は後日、その後の落ち穂ひろいをもとに書き直しました)。

[☆☆☆★★] 旧ソ連リトアニアを併合した翌年、1941年のある日の夜、同国の小さな町に住む少女リナ・ヴィルカスの家に突然、NKVD(内務人民委員部)の要員が乱入。リナは母と弟ともども逮捕され、そのまま遠くシベリアの地へと移送される。父も出先で逮捕、やがて投獄された模様。そんな粗筋から想像できるとおり、ここではホロコーストを扱った小説と同様の世界が描かれる。屈辱、恐怖、暴行、殺人、強制労働。さらには、むき出しのエゴ、友情、愛情、かすかな夢と希望。どれも想定内の題材で、けっして目新しくはない。しかしいくつか巧みな工夫もほどこされ、読ませる。忌まわしい現在の物語と幸せだった時代の回想が交互に進むのは定石どおりのようで、じつはリナの一家が強制連行された理由につながっている。画才のあるリナがひそかにNKVDの要員や同胞の似顔絵、悲惨な事件などをスケッチブックに描き、あわせて説明を記入。たんなるキャラづくりのエピソードかと思いきや、なんと本書の根幹にかかわっていたことがあとでわかる。ただし、事実は小説より怖い。リトアニアが遭遇した「世紀の悲劇」といわれるジェノサイドはホロコーストにも匹敵するもので、その史実が背景にあるわりに本書の記述はあっさりしている。もちろん愛の美しさ、別れのつらさは痛切だが、ジェノサイドの根源に迫る洞察は上の「想定内の題材」からは読み取れない。佳篇どまりなのが惜しい。