ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Nathan Englander の “What We Talk about When We Talk about Anne Frank” (1)

 今年のフランク・オコナー国際短編賞の受賞作、Nathan Englander の "What We Talk about When We Talk about Anne Frank" を読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★★] 人生にはさまざまな真実の瞬間がある。なにも深遠な哲学的真理でなくとも、身近な人間、そして自分の心の奥に秘められた思いが、ふとした事件をきっかけに浮かびあがる。本書は、そういう日常生活における真実の瞬間を鮮やかにとらえた好短編集である。タイトルどおり各話ともユダヤ人の世界が描かれ、ホロコーストやその後日談、人種差別の実態など、題材としてはおなじみのものが多い。が、活きのいい力づよい文体に惹かれ、コミカルなやりとりや出来ごとを楽しんでいるうち、やがて緊張が高まり息苦しくなる。妄想や執念がほとんど非現実の域にまで達し、背筋の凍るような事件が起こる。感情がむき出しになる。それは人生の真実が凝縮された瞬間であり、どの物語でも、読みはじめたときから世界が一変したかのような衝撃を受ける。まさに短編小説の醍醐味である。